著者
辻 大介 Tsuji Daisuke ツジ ダイスケ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.211-224, 2017-03-31

社会学 : 研究ノート本稿では、2007年と2014年に実施したウェブ調査の結果から、「ネット右翼」層の規模と属性・行動・意識等の特徴について報告する。「ネット右翼」とは日本版のオルタナ右翼とも言えるものであり、本研究では、1)中国と韓国への排外的態度、2)保守的・愛国的政治志向の強さ、3)政治や社会問題に関するネット上での意見発信・議論への参加という3点から操作的に定義した。この定義に合致するケースは、2007年調査では全標本中の1.3%、2014年は1.8%であった。これらのあいだに統計学的な有意差はなく、「ネット右翼」層が増えたとは言えない。また調査標本の特性を考慮すると、ネット利用者全般における「ネット右翼」の比率は、実際には1%未満と見積もるのが妥当と思われる。2014年調査データの分析結果によれば、「ネット右翼」層には男性が多く、年齢や学歴には有意な特徴はない。ネットのヘビーユーザであり、ソーシャルメディアのなかではTwitterを活発に利用する。「2ちゃんねる」を含む掲示板全般、「ニコニコ動画」を含む動画サイト全般の利用頻度も高く、右派系のオンラインニュースサイトへの選択的接触傾向をもつ。ネット上で他者とのトラブルを経験した率が高く、オンライン脱抑制の程度もネット中毒の程度も強い。This article reports the results of web-based surveys conducted in 2007 and 2014, in order to investigate the actual conditions of Netto-uyoku, online activists of the Japanese alt-right. In this study Netto-uyoku is operationally defined as those who are: 1) xenophobic toward China and Korea, 2) have a nationalistic political attitude, and 3) post or exchange opinions about political issues via the Net. Respondents who meet this definition were 1.3 percent of total samples in 2007, and 1.8 percent in 2014. Statistically there is no significant difference between these ratios, suggesting that Netto-uyoku has not increased in a recent decade. In addition, taking account of sample selection bias, the actual size of Netto-uyoku is estimated at far less than 1 percent of the Japanese Internet users. Analyses of 2014 survey data showed that over three quarters of Netto-uyoku are males, but there are no significant features in their ages and educational backgrounds. They are heavy users of the internet, and prefer Twitter to other social media such as Facebook or LINE. They use BBS websites such as "2channel", video sharing websites such as "Niconico", and online game sites more frequently than other internet users. Netto-uyoku are more likely to experience online troubles or flaming with others, and it seems partly because of their high degree of online disinhibition and internet addiction.
著者
鈴木 彩加 スズキ アヤカ Suzuki Ayaka
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.23-38, 2013-03-31

現代の日本社会において、草の根レベルの保守運動が活発化している。1990 年代後半には「新しい歴史教科書をつくる会」によって歴史修正主義に基づく中学校歴史・公民教科書の制作と採択運動が行われた。2000 年代前半になると、保守系諸団体によって男女共同参画反対運動が行われ、行政に大きな影響を与えた。これらの草の根保守運動は、市民運動とも類似性をもつ草の根レベルの新しい保守運動として注目されている。その契機となったのが小熊英二・上野陽子(2003)による「つくる会」の実証研究である。しかし、草の根保守運動を対象にした実証研究はその後行われておらず、とくに社会的影響力の大きかった男女共同参画反対運動に関しては保守系団体がどのように人びとの支持を集めているかが明らかにされていない。そこで本稿では、全国的にみても男女共同参画反対運動が活発だった愛媛県の市民団体A 会を事例とし、保守系団体が男女共同参画を問題化し人びとの支持を集めることができた要因を提示した。分析と考察の結果、愛媛県の男女共同参画反対運動では「つくる会」歴史教科書運動では見られなかった保守系諸団体間のつながりが草の根レベルでも存在していること、そして“ 家族” に争点化することで女性会員の生活意識に訴えかけていることが明らかとなった。
著者
東 園子 Azuma Sonoko アズマ ソノコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.27, pp.71-85, 2006-03-31

本稿は、もっぱら男性に対してのみ用いられている「ホモソーシャリティ」という用語を女性にも適用する意義を提示することを通して、「女性のホモソーシャリティ」概念の確立を目指すものである。イヴ・コゾフスキー・セジウィックは、同性間の社会的絆であるホモソーシャル関係を、ホモセクシュアルとの類似と区別という観点から考察することで、近代欧米社会において男性の同性関係を「性的」/「非性的」で区分する認識枠組みを明らかにし、「非性的」な関係から社会を分析する有効性を示した。このような同性間の「非性的」な関係性を表す「ホモソーシャリテイ」概念を女性にも用いることで、女性間の「非性的」な絆が認識困難になっている現状を可視化し、女性や女性が取り結ぶ関係性に強固に結び付けられている「性的なもの」との関係を問い直すことが可能になる。また、フェミニズムにおいては「シスターフッド」や「レズビアン連続体」という女同士の絆を表す用語が存在しているが、「女性のホモソーシャリティ」は、分析慨念としてこの両者とは異なる意義を有している。「女性のホモソーシャリティ」概念は、現在の強制的異性愛を伴う男性中心的な社会を分析する際に有効なだけでなく、そのような社会に枠付けられた女性の関係性のあり方を超えて、新しい女同士の関係を想像する端緒になると考える。
著者
渡辺 健太郎 Watanabe Kentaro ワタナベ ケンタロウ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.38, pp.139-157, 2017-03-31

社会学 : 論文本稿では、「なぜ若年層の権威主義化が生じたのか」を明らかにするため、「大学進学率」と「専攻分野」を用いた説明を試みた。先行研究では、若年・高学歴層の権威主義化が指摘されていたが、高学歴層のうち、どのような人たちが権威主義化しているのかについては明らかにされてこなかった。そこで、SSM1995データとSSP2015データの比較を行った結果、若年層における権威主義化は高学歴男性において生じていたことが確認された。そして、高学歴層の権威主義化についてより詳細に検討するために、SSP2015データを用いた構造方程式モデリングにより、「大学進学率」と「専攻分野」の交互作用効果を検討した。その結果、大学進学率の高まりにともなって、文系学部卒の男性が権威主義傾向を示すことが明らかとなった。大学進学率と権威主義的態度に関連が見られたのは、相対的権威主義層の高等教育への流入と学生同士の相互作用によると考えられる。以上より、高等教育の拡大に伴う文系学部卒男性の権威主義化によって、若年層の権威主義化がもたらされたことが示唆された。
著者
樋口 麻里 Higuchi Mari ヒグチ マリ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.193-210, 2017-03-31

社会学 : 研究ノート質的データ分析支援ソフトウエア(CAQDAS: Computer-Assisted Qualitative Data Analysis Software)を、有効に利用するには、各ソフトウエアがどのような分析を行うために開発されたのかを理解する必要がある。そこで本稿では、主要なソフトウエアであるAtlas.ti7とNVivo11を取り上げ、それぞれの機能の特徴から、各ソフトウエアの背景にある分析方法に対する考え方を探った。その結果、次のことが示唆された。Atlas.tiは、データに即した抽象度の低いコードを作成し、それらを関連づけながら概念を構築する機能を特徴としていた。これは、データの文脈に根差した分析を重視する、グラウンデッド・セオリー・アプローチの方法に適合的であった。一方、NVivo は、ミックスド・メソッド・アプローチといった、より多様な方法への対応を志向していた。これは、コーディングの機能に、概念構築とデータの分類という二つの異なる機能が備わっていることから考えられる。この機能は、量的データを含む大量のデータを分類して、データ全体の特徴を把握することに適していた。Behind the functionalities of analytical software, there is a methodological philosophy as to how analysis should be done. It is essential to understand such philosophies of each CAQDAS (Computer-Assisted Qualitative Data Analysis Software) in order to use them appropriately for qualitative data analysis. For this reason, this paper explores the functionalities of Atlas.ti7 and NVivo11 to elucidate their philosophical differences. The Atlas.ti can easily handle codes with low abstraction, which enables users to consider the relationship between codes and to construct concepts or theories grounded on data. The NVivo aims to respond to various methods. It emphasizes extracting the characteristics of large amounts of data by examining the data diversely with applying two functions of coding: constructing concepts and classifying the data.
著者
宮澤 由歌 ミヤザワ ユカ Miyazawa Yuka
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.89-105, 2014-03-31

ジョルジュ・バタイユの共同体論は、彼の時代の一般的な共同体への考え方に対して異質なものであった。バタイユの共同体論を検討したジャン=リュック・ナンシーとモーリス・ブランショは、この共同体を主体を露呈させる場であると捉えている。恋人たちの共同体は、そうした特徴をもっとも濃く有するものである。恋人たちの共同体において、共同体の構成員は互いに対象とは違ったイメージを見出し、それはバタイユによって宇宙と名付けられる。恋人たちの共同体と一見類似していると思われる結婚の共同体が、法に則って生起・持続し、生産を目的とすることを明らかにすることは、恋人たちの共同体の異質性を際立たせる。恋人たちの共同体の目的は生産になく、むしろ、エネルギーを消尽させることにある。さらに、この共同体は、主体の概念の再考を促す。主体は不充足の原理に貫かれている。主体は、共同体以前に存在しない。主体は共同体のなかで見出される概念にすぎない。こうしてジョルジュ・バタイユの思想が、共同体の概念の価値を劇的に変化させたことが明らかにされる。
著者
神崎 隼人 Kanzaki Hayato
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.41, pp.129-144, 2020-03-31

人間学・人類学 : 研究ノート近年、いわゆる「存在論的転回」を巡って、日本語でも議論や情報共有が広がってきた。そうした「転回」の新たなアプローチとして、「ポリティカル・オントロジー(以下、PO)」が提案されている。本稿では、これらの論者の著作を検討し、POの分析方法を整理することを目的とする。これまで、天然資源開発や環境保全と先住民との間のコンフリクトの分析では、普遍の「環境」が大前提とされてきた。それに対しPOは、先住民にとって「環境」とは全く異なった実在が大前提にあることに注目する。この前提において、P Oは、コンフリクトに至るまでにどのような人間と非人間の関係性が作り上げられたか(歴史的コンテクスト)、その中で先住民は非人間についてどのような概念や実践を通じて関わっているのか(在来の概念)、そしてどのように西洋の存在論が、先住民の世界を「信仰」や「文化」に還元し、政治の領域から排除してきたのか(存在論の力関係)を、明らかにする。さらにP Oは、人類学者と人びとの間の「会話」というミクロな場を考察する。こうした場には、同じ語や概念を使って対話する両者が、異なる世界を跨いでいるために経験する根本的な「誤解」があり、異なる存在論の間の緊張を伴う交流が浮かび上がるのである。こうした分析からPOは、" われわれ" が「自然」と扱ってきたものの多数性や可能性、そして「多元世界」の政治に対する想像力を、喚起することを試みる。
著者
伊藤 理史 イトウ タカシ Ito Takashi
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.1-15, 2016-03-31

2011年11月27日に実施された大阪市長・府知事選挙(2011年ダブル選挙)の結果、大阪市長に橋下徹が、大阪府知事に同じく橋下陣営の松井一郎が当選した。このような橋下陣営の躍進(橋下現象)は、現代日本における新しい政治現象の典型例とみなされている。しかし誰が橋下現象の担い手なのかという点については、必ずしも明らかではない。論壇やマス・メディアでは階層との関連が指摘されているが、いまだ適切な個票データと実証研究の蓄積は乏しい。そこで本稿では、階層政治論に注目して主にその有効性を検討した。自ら実施した「大阪府民の政治・市民参加と選挙に関する社会調査」の個票データを使い、多項ロジスティック回帰分析から2011年ダブル選挙における候補者選択と投票参加の規定要因を検討したところ、階層と投票行動の関連が両選挙でみられなかった。このことは候補者選択における階層間対立と投票参加における階層的不平等の不在を意味する。以上の分析結果より、現代日本における新しい政治現象の典型例としての橋下現象は、階層政治論から説明できないことが示された。橋下陣営の人気は、候補者選択における階層間対立と投票参加における階層的不平等を超えて多数派からの支持を獲得したことによって生じている。つまり本稿は、現代日本における新しい政治現象が生じた有権者側の要因について示唆を与えるものである。
著者
鈴木 彩加 スズキ アヤカ Suzuki Ayaka
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.34, pp.23-38, 2013

現代の日本社会において、草の根レベルの保守運動が活発化している。1990 年代後半には「新しい歴史教科書をつくる会」によって歴史修正主義に基づく中学校歴史・公民教科書の制作と採択運動が行われた。2000 年代前半になると、保守系諸団体によって男女共同参画反対運動が行われ、行政に大きな影響を与えた。これらの草の根保守運動は、市民運動とも類似性をもつ草の根レベルの新しい保守運動として注目されている。その契機となったのが小熊英二・上野陽子(2003)による「つくる会」の実証研究である。しかし、草の根保守運動を対象にした実証研究はその後行われておらず、とくに社会的影響力の大きかった男女共同参画反対運動に関しては保守系団体がどのように人びとの支持を集めているかが明らかにされていない。そこで本稿では、全国的にみても男女共同参画反対運動が活発だった愛媛県の市民団体A 会を事例とし、保守系団体が男女共同参画を問題化し人びとの支持を集めることができた要因を提示した。分析と考察の結果、愛媛県の男女共同参画反対運動では「つくる会」歴史教科書運動では見られなかった保守系諸団体間のつながりが草の根レベルでも存在していること、そして" 家族" に争点化することで女性会員の生活意識に訴えかけていることが明らかとなった。Conservative movements are intensifying advertisement in erce con ict with progressive social movements in the contemporary Japanese society. In particular, Japanese Society for History Textbook Reform has taken action in terms of revisionism since late 1990s. Conservative groups have held protest movements against gender equality since early 2000, which resulted in drastic impact on the government. These conservative movements have received attention as new grass-roots conservative movements. Oguma and Ueno (2003) suggested that the contemporary conservative movements are similar to civil movements by analyzing Japanese Society for History Textbook Reform. However, eld research studies of these grass-roots conservative movements, especially the protest movements against gender equality have not followed after Oguma and Ueno. It is still an open question how the grass-roots conservative movements against gender equality gain support from people in grass-roots. In this paper, I aimed to develop discussion of the grass-roots conservative movements and to show what makes people get involved in the movements against gender equality. From the aspect of gender, I analyzed a case of a civil group against gender equality in a local city in Japan. Through the analysis and discussion, I showed that the conservative civil group mobilizes human resources from various conservative and religious groups to extend their social and political in uence and to campaign for increasing public awareness. Moreover, I found that the conservative group appeals the primitive consciousness of female participants by focusing on the topic of "family."
著者
樋口 麻里 Higuchi Mari ヒグチ マリ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.39, pp.29-43, 2018-03-31

社会学 : 研究ノート質的データの分析力の養成には、分析の手順について知ることに加えて、データの分析練習を重ねること、そして分析練習の時に生じる疑問について議論することが有効である。これらを授業時間内で実施するには、作業時間の短縮と、授業参加者全体で分析を検討する分析過程の可視化が必要である。これらを実現するツールとして、QDAソフトウェアの利用が考えられるが、授業に効果的に活用するには、QDAソフトウェアの機能と分析法との対応を把握する必要がある。そこで本稿では、主要なソフトウェアであるMAXQDA12の機能の特徴について、Atlas.ti7とNVivo11との比較から探った。そして、作業時間の短縮と分析過程の可視化にMAXQDA12の機能をどのように利用できるのか、また機能と分析法との対応について、漸次構造化法とKJ法をとりあげて検討した。その結果、MAXQDA12は抽象度の低いコードからの分析を重視するAtlas.ti7と、抽象度の高いコードをふることでデータの分類に力を入れるNVivo11の中間に位置するソフトウェアと考えられた。また基本的機能の特徴から、初学者にも利用しやすいと考えられた。作業時間の短縮と分析過程の可視化については、紙媒体では授業中での実践が難しい同時比較を簡便に行えることを示した。MAXQDA12は階層構造によるコードの整理を重視していることから、帰納的アプローチを基盤としつつも、演繹的アプローチにも寛容な漸次構造化法やKJ法に適合的であった。To train analytical skills of qualitative data, in addition to knowing the procedure of the analysis methods, it is effective to practice data analysis repeatedly and discuss questions raised at the time of the practice. In order to conduct it within limited class hours, it is necessary to shorten the analysis work time and to visualize the analysis process for discussing the way of analysis for all class participants. QDA software is one tool to realize this aim. In order to use QDA software effectively in class, it is necessary to consider the correspondence between each function of the QDA software and the analysis method. In this paper I focus on one major type of QDA software, MAXQDA 12, and explore its functional characteristics through comparison with Atlas.ti7 and NVivo11. Then I examine how the function can be used to shorten the analysis work time and visualize the analysis process. In addition, I explore how MAXQDA12 functions correspond to analysis methods. MAXQDA12 can be positioned between Atlas.ti7, which emphasizes creating concepts from codes of low abstraction, and NVivo11, which intends to classify data by code of high abstraction. From characteristics of basic functions of MAXQDA12, it is considered that beginners can start using the software easily. For shortening the analysis work time and visualizing the analysis process, I give an example of the simultaneous comparison which would be diffi cult to implement in the class when using paper media. Concerning the correspondence of software functions to analysis methods, MAXQDA12 puts importance on organizing codes by layers, which is compatible with those incorporating a deductive approach based on an inductive approach such as the KJ method and the gradual structuring method (Zenji-Kōzōka-Hou).
著者
藤高 和輝 フジタカ カズキ Fujitaka Kazuki
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.103-117, 2015-03-31

本稿は、J・バトラーの一九八〇年代における身体論を考察する。バトラーの代名詞といえる『ジェンダー・トラブル』における理論的観点は一挙に形成されたわけではない。それは八〇年代における思索を通じて、ゆっくりと形成されたのである。八〇年代のバトラーにとって、第一義的な問題は身体であり、ジェンダーもそのような思索の延長にある。身体とは何か、身体の問題にいかにアプローチすべきかという問題は、八〇年代のバトラーを悩ませた大きな問題であった。この問題へのアプローチは八〇年代を通じて、「現象学からフーコーへ」の移行として描くことができる。逆にいえば、現象学との対決は『ジェンダー・トラブル』におけるバトラーの理論を生み出すうえでひじょうに重要な契機だった。本稿では、私たちはバトラーの思索において現象学が果たした役割を明らかにし、それがいかにフーコーの系譜学へと移行するかを示したい。This paper examines Judith Butler's thought regarding the body in the 1980s. Her theoretical perspective in Gender Trouble (1990) which has become a synonym for Butler, was not created at once. It was gradually formed thorough her speculations during the 1980s. In this paper, we show how her theory in Gender Trouble had been created through her thought in the 1980s. For Butler in the 1980s, the primary problem is the body, where gender is a facet of the problem. What is the body? How should we approach the body? These questions are the problems Butler engages in the 1980s. We can trace her approach to the body in the 1980s as the turn "from phenomenology to genealogy." In turn, her confrontation with phenomenology played a very important part in the establishment of her theory in Gender Trouble. Butler fi rst found phenomenology a method for approaching the body, redefining genealogy as theorized by Foucault, thorough her later critique of phenomenology, at least in 1989. In this paper, we illustrate the role played by phenomenology in Butler's thought in the 1980s, and how she shifts from phenomenology to genealogy.
著者
大久保 将貴 オオクボ ショウキ Okubo Shoki
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.35, pp.19-37, 2014

本稿の目的は、制度研究における最新の動向をサーベイすることである。社会科学において、制度は古くからの研究対象であったが、近年、社会現象の理解のために、「制度が重要な意味をもつ (Institutions matter)」ことが一層認識されている。制度研究の歴史をサーベイした論文は存在するものの、とりわけ2000年以降の研究動向を包括的に紹介したものは極めて少ない。そこで本稿では、最新の制度研究の動向を提示することで、制度研究のフロンティアにおける成果と課題を明らかにする。具体的には第1に、従来は対立的だとみなされてきた社会科学における各制度論が、今日では補完的に用いられていることを指摘し、それはどのような仕方であるのかを提示する。第2に、今日の制度研究は内生的な制度変化を説明するという問題に直面していることを指摘する。第3に、上記2点の課題に対し具体的に採用されている分析手法として、ゲーム理論と実験室実験、反実仮想による因果推論、操作変数法の3つを取り上げ、最新の研究事例とともにその方法を紹介する。This paper reviews the latest theories and methods in institutional analysis in the social sciences. First, it makes abundantly clear how the contemporary paradigm of institutional analysis involves an "intellectual trade" that transcends the traditional boundaries of the social sciences. Second, it makes clear that institutional analysis faces a problem of explaining endogenous institutional change. Third, it surveys methods of game theory, causal inference and instrumental variables that are pivotal analytical methods in recent institutional analysis. While these three analytical methods will inevitably remain a formidable challenge, the prospects for game theory, causal inference and instrumental variables in sociology may thus be better than their current reputation would suggest.
著者
古怒田 望人 Konuta Asahi コヌタ アサヒ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.41, pp.95-110, 2020-03-31

人間学・人類学 : 論文エマニュエル・レヴィナスは、同時代の現象学者のなかでもとりわけ、その現象学の発端からセクシュアリティを一つの軸としていた。本論は、レヴィナスの主著である『全体性と無限』(1961)におけるセクシュアリティの現象学を「自己変容」という側面から解明し、レヴィナスのセクシュアリティの現象学を、セクシュアリティの文脈で具体的に展開する可能性を提示したい。第一節では、レヴィナスのセクシュアリティの現象学の先行研究の問題点を指摘し、この現象学が「生殖」中心主義とは異なった「セクシュアルな自己変容」としてセクシュアリティを記述しているという展望を示す。第二節では、この「セクシュアルな自己変容」の記述がどのような文脈においてなされたのかを解明するために、30年代のレヴィナスの記述にまで遡り、ナチズムにおける生物学決定論に対するレヴィナスの批判との関連性を示す。第三節では、レヴィナスの「セクシュアルな自己変容」の記述がこの決定論を覆す現象であることを概観しつつ、レヴィナスのセクシュアリティの現象学が「男/女二元論的性差」の二項対立を素朴に措定しているものではないことを示す。最後に、第四節において、そもそもなぜレヴィナスはこのような「セクシュアルな自己変容」の記述を必要としたのか、またそのセクシュアルな自己変容の体験における「曖昧さ=両義性」から、この現象学の臨床的な意義を提示したい。Emmanuel Levinas (1906–1995) referred to sexuality more often than his contemporaries in the field of phenomenology. In this paper, we aim to clarify the description of sexual self-transformation presented in his main work, Totality and Infi nity (1961), with a primary focus on why Levinas so strongly emphasized nonreproductive sexual acts such as petting. In doing so, we highlight the signifi cance of his description of sexual self-transformation from a clinical perspective.
著者
乾 順子 イヌイ ジュンコ Inui Junko
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.34, pp.39-54, 2013

本稿の目的は、既婚女性の人生満足度に着目し、過去における性別分業意識と働き方が、既婚女性の中高年期の人生満足度にどのような影響を与えるかを明らかにすることである。一時点における生活満足度と従業上の地位・性別役割分業意識との関連については、意識と働き方が一致しているもの、つまり分業賛成と無職、分業反対とフルタイムであるものの生活満足度が高いという分析結果がある。しかし、パートという分業意識と一致しているかどうかが不明確な就業形態については、その関連が明らかにされてはいなかった。また、人生後期の人生を振り返っての満足感と、変更不可能な過去の意識と働き方の関連についての分析もこれまでなされてこなかった。これらは、日本における既婚女性のパート就業率の高さやその多様さを鑑みても、今後の女性就業や雇用政策、家族政策などを考える上でも重要な課題であると考えられる。そこで本稿では、1982 年と 2006 年の2 時点で実施されたパネル調査データを使用し、過去の分業意識と働き方がその後の中高年期の人生満足度に対して影響を与えるかについての分析を行った。その結果、過去の分業意識をコントロールしても、「パート型」のものの人生満足度が最も低かった。さらに、分業意識と職業経歴の交互作用を検討したところ、平等志向の強い「パート型」のものにおいてさらに人生満足度が低くなることが明らかとなった。This study clari es how married women's gender role attitudes and career patterns in the past affect their life satisfaction in their middle and advanced ages. It has been found that when working styles are consistent with their gender role attitudes, their degrees of life satisfaction increase. For example, housewives who have traditional gender role attitudes and full-time working wives who have non-traditional gender role attitudes tend to be satis ed with their lives. However, the relationship between gender role attitudes and part-time workers' life satisfaction has not been clari ed. Meanwhile, cross-sectional data does not clarify the causal relationship between gender role attitudes and work status. In order to explore their relationships, the present study uses longitudinal data from a sample of 152 wives who were interviewed both in 1982 and 2006. Using multiple regression analysis, the author states that the degree of retrospective life satisfaction of "part-time type career pattern workers" is lowest during the second wave, controlling for their gender role attitudes during the rst wave and other socio-economic variables. Furthermore, "part-time type career pattern workers" who have more egalitarian gender role attitudes are the least satis ed with their lives.