著者
Wada Yoshito Kawai Senji Oda Tsutomu Miyagi Ichiro Suenaga Osamu Nishigaki Jojiro Omori Nanzaburo Takahashi Katsumi Matsuo Reizo Itoh Tatsuya Takatsuki Yoshiyuki
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.37-44, 1969-03-31
被引用文献数
2

To make clear the dispersal of Culex tntaeniorhynchus females in rather hilly Nagasaki area, a mark-and-recapture method was applied in summer, 1967. From 3 points, differently marked 156,500 females in total were released at 4 AM, July 29, and recapture catches were made by light traps at 19 points in the area of 8km×10km on 7 succeeding nights from the release. From the results obtained, it is seen that (1) the females disperse generally along valleys and seacoast; (2) usual flight range seems to be at least 1.0km; (3) some of the females have an ability to fly at least 2.0km without landing, and to disperse at least 8.4km. Also a method of estimating daily loss rate of the released females by the daily recapture data was described.長崎県は一般に平地に乏しく,海岸近くや小さな谷に沿って村落や水田が発達している所が多い.このような地形の複雑な地方でのコガタアカイエカの分散状況を明らかにするために,長崎市街地の東北に隣接する東西約8Km南北約10Kmの地域で,記号放逐法による分散実験を行った.上記地域に合計19地点を選び,その中の3ケ所から異った螢光色素でマークしたコガタアカイエカの雌成虫計約156,500個体を7月29日午前4時に放逐し,その夜から7日間毎夜全地点において畜舎に或いはドライアイスと共に野外に設置したライトトラップを用いて採集し,その中に含まれているマークされた蚊を放逐地点別に記録した.その結果は次のように要約される.(1)放逐した約156,500個体の中231個体(0.15%)が回収された.(2)放逐蚊は,岡をさけて谷間沿いに或いは海岸沿いに飛翔分散する個体が多い.(3)放逐第1日の最大飛期距離は5.1Kmであり,回収全期間7日間の最大は8.4Km平均は1.0Kmであったことから,コガタアカイエカの飛翔能力はかなり大きく,少なく共1Kmは通常の行動範囲内に入るものと思われる.(4)海岸近くで放逐したものの1個体が標高210mの峠を越えて2.3Km離れた,長崎市街地のすぐ近くの1地点で回収されたことは,峠を越えて市街地へ侵入するコガタアカエカの数が少なくないことを想像させるものである.(5)回収個体数の経日的減少状況から,日生存率の推定値として0.4888を得た.こゝでは調査地域外へ移動した,或いは吸血により採集対象外となったものは死亡として計算したので,上記の値は多少過少評価されている.