著者
森 章夫 小田 力 和田 義人
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.79-90, 1981-06-30

ヒトスジシマカの休眠卵は低温短日下で育った雌成虫によって産まれるが,卵休眠を誘起する温度,日長条件に最も感受性が高いのは蛹と成虫期であった.長崎では9月中旬から休眠卵が多くなり,10月下旬には産まれる卵がすべて休眠卵であった.休眠卵は翌年2月頃覚醒するまでは孵化することはなく,屋外では3月中旬から5月下旬にかけて孵化する.しかし,非休眠卵でもある程度の耐寒性を備えており乾燥していたりすると越冬も可能である.それゆえ休眠卵は秋に卵が孵化し冬の寒さで幼虫が死滅することを防ぐのに役立っていると考えられる.Diapausing eggs of Aedes albopictus are laid by females reared under the condition of low temperature and short photoperiod. The pupa and the adult are sensitive stages to temperature and photoperiod in the induction of egg diapause. In Nagasaki, diapausing eggs increase in mid September, and all eggs laid after October are in diapause. These diapausing eggs overwinter, and would not hatch until the diapause is broken in February of the next year. Hatching of diapausing eggs begins in mid March and continues until late May. Through some non-diapausing eggs can overwinter, it is sure that most overwintering eggs are in diapause in the field. It seems that the advantage of egg diapause is to prevent eggs from hatching before winter.
著者
鈴木 寛 ジャスト パランギョ キサリ 福本 美枝 松本 慶蔵 麻生 卓郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.255-260, 1985-12-28

1982年以降,長崎県内においてもつつがむし病の散発的発症例が報告されるようになった。そこで,長崎県内におけるリケッチア・ツツガムシによる汚染地を調べるために,各地(長崎市,島原市,福江市,大瀬戸町,若松町,有川町,新魚目町)のいわゆる健康人を対象として,リケッチア・ツツガムシに対する抗体を測定した.尚,抗体は抗原としてギリアム株を用いたimmune peroxidase法によりIgGおよびIgM抗体が測定された.各地における抗体陽性率は2%(島原市)から60%(新魚目町)に分布していた.地域間の比較では,新魚目町と有川町の抗体陽性率と抗体分布レベルが他の地域よりも有意に高く,さらに,これらの2地域の対象のみからIgM抗体が検出された.そこで,長崎県内においては,調査した7地域のうち2地域がリケッチア・ツツガムシによる汚染地であると推定された.
著者
Kurahashi Hiromu Suenaga Osamu
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1,2, pp.1-5, 1991-06-29

Tricycleopsis paradoxa Villeneuve is newly recorded from the mainlands, Honshu, Shikoku and Kyushu, Japan. The female is redescribed in detail. The illustration of ovipositor is given for the first time. A key is provided to distinguish it from the Japanese endemic species, T. tibialis Kurahashi.
著者
末永 斂 黒川 憲次 和田 義人
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.47-54, 1987-03-31

多系統の蚊を累代飼育する場合,なるべく手間のかかならい飼育法の開発が望まれる.蚊成虫の飼育には通常,砂糖水を脱脂綿に含ませて栄養として与えているが,その場合,1~数日置きに新しいものと交換するか,新しい砂糖水を補充しなければならない.われわれは市販の角砂糖と汲み置きの水道水とを別々の容器に入れて与え,成虫を飼育することに成功した.飼育に使用するケージは大きさが200×200×300mmの針金枠にテトロンゴース製の袋をかぶせたもので,このケージを230×320×2mmの塩化ビニール板の上に載せて使用する.このケージ1個で飼育できる成虫数は約1,000個体以内である.ケージの内部には水道水を満たした90mlのプラスチックコップと角砂糖2~3個(蚊の個体数による)を載せた同コップの蓋をそう入する.成虫はコップの水を飲み,角砂糖をだ液で液かして摂取することにより, 2~3週間放置しても健康な状態で生存し,その後でもマウスから吸血し,産卵する.蚊の生存率,吸血率,産卵率,及び卵の孵化率は羽化して約1週間後から多少低下するが,次世代を得るのに支障はない.飼育室内は温度約25℃,湿度約70%,薄明・薄暮を含む長日照明の状態に保つことが望ましい.湿度が高すぎると角砂糖が溶け出し,また低すぎるとコップの水が早くなくなるので共に避けなければならない。出張などで10日間以上放置する場合には,角砂糖を更新し,水の量を多くする.角砂糖の表面が甚だしく汚れた場合には,表面をナイフの縁などで削り落して新しい面を出すことにより再使用できる.われわれはこの方法で,アカイエカ群の数系統の蚊を6年以上にわたり累代飼育している.Although the soaked cotton pad method seems to be the most commonly used technique for providing the sugar solution for adult mosquitoes, the cotton pad must be exchanged with a fresh one at an appropriate interval. For this reason, we examined the cube sugar technique to save us the trouble of handling mosquitoes in the laboratory for rearing several mosquitoes, Culex pipiens complex, Aedes togoi and Armigeres subalbatus. The results showed that this technique seems to be very useful to rear the adult mosquitoes, though the blood feeding rate in cube sugar group was slightly lower than that in 1-5% sugar solution groups. We are maintaining several strains of Cx. pipiens complex successfully by using this technique over 6 years.
著者
鈴木 寛 山本 由美子 松本 慶蔵 麻生 卓郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.119-127, 1988-06-30

長崎県において,つつが虫痛が発生している平島(283名)と発生していない江ノ島(270名)の住民を対象として,リケッチア・ツツガムシ感染症に関する血清疫学的研究を行った.IgG抗体は抗原としてギリアム株を用い,酵素抗体法により測定した.全住民に対する抗体陽性率は平島(33.2%)が江ノ島(22.6%)より高値であったが,抗体レベルは平島(1.65±0.47)より江ノ島(1.88±0.47)で高値であった.年齢別抗体の陽性率とレベルの比較では,平島では19才以下が40才以上より高値であったが,江ノ島では差異を見い出し得なかった.これらの成績は平島では年齢による感染時期の差,つまり若年者が比較的最近感染し,江ノ島では全住民が同じ時期に感染していること,更に,つつが虫病患者が発生していない江ノ島においても弱毒性リケッチア・ツツガムシが存在していることを示唆した.
著者
佐藤 克之 野田 伸一 Miguwe David K. Ziro Gideon N. Muhoho Ngethe D.
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.197-202, 1985-12-28

ビルハルツ住血吸虫症の流行地であるケニア国クワレ地区ムワチンガ村において,住民によく利用されている水系から,特に利用頻度の高い2ケ所(Site 6,Site 19)を選び,水中のセルカリア密度を,Prentice(1984)の方法を用いて測定した。さらにセルカリアの種を同定するために,4匹ずつの未感染ハムスターを調査地の水に暴露し,約3カ月後剖検して住血吸虫の感染の有無について調べた.Site 6では,401の水からわずかに1隻のセルカリアが回収されただけで,4匹のハムスターには,いずれも住血吸虫の感染は見られなかった.これに対して,Site 19では81の水から231隻のセルカリアが検出され,また4匹のハムスターからも,合計31個体の住血吸虫成虫(雄20,雌11)が回収された.これらのハムスターの肝臓には多数の住血吸虫卵が見い出され,形態学的特徴からビルハルツ住血吸虫のものと同定された.住血吸虫症流行地のいろいろな水系の水の危険度を測定する際のセルカリオメトリーの有用性について考察した.
著者
佐藤 克之 勝又 達哉 青木 克己 野田 伸一 Muhoho Ngethe D.
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.81-85, 1987-06-30

ビルハルツ住血吸虫症の流行地であるケニア国クワレ地区ムワチンガ村において,住民によく利用されている水系から,特に利用頻度の高い2ヶ所(Site 6, Site 19)を選び,水中セルカリア密度の日内変動をセルカリオメトリーにより測定した.測定は,メトリフォネートによる集団治療と水道水供給とを組み合わせたコントロール対策実施の前後2回にわたって行なった.(1983年11月及び1984年8月)Site 19では,コントロール対策実施前には,90リットルの水から合計567隻のセルカリアが検出され,水中のセルカリア密度は正午をピークとする日内変動を示した.コントロール対策実施後6ヶ月経た時点でも,90リットルの水から354隻のセルカリアが回収され,水中セルカリア密度は13時をピークとする日内変動を示した.このことから,Site 19では正午から午後1時にかけて感染の危険度が最も高く,早朝や夕方は低いことが考えられる.また,コントロール実施後でも、まだ感染の危険が相当残っていることが明らかとなった。一方, Site 6ではコントロール対策実施前に180リットルの水から2隻のセルカリアが検出されただけで,コントロール実施後には,セルカリアは回収されなかった。このようにもともとセルカリア密度の低い水系では,本実験で用いたセルカリオメトリーでコントロール対策が住血吸虫症の伝搬に及ぼす効果について評価することは困難と思われる.住血吸虫症コントロール対策が感染の危険度の減少に及ぼす効果を判定する際に,セルカリオメトリーを用いた場合の問題点について考察した.
著者
ムハンド ピーター 柳 哲雄 福間 利英 中澤 秀介 神原 廣二
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.27-36, 1987-03-31

Trypanosoma brucei gambiense (Tg) Wellcome株の培養に,侍養細胞としてICRマウス新生仔由来細胞を用いると,新しく分離された脳及び筋由来細胞はTgの増殖をたすけるが,分離後40日を経過し,増殖が確立した脳及び筋由来細胞は侍養細胞としての能力を失う.新しく分離された細胞でも腎由来細胞はTgの増殖をたすけない.Tgを侍養するか否かに関して増殖因子の有無について検討した.Tgを侍養する細胞を培養皿の半面に,他の半面に侍養しない細胞を播いて,その上でTgを培養したところ,前者の側でのみTgは増殖した.増殖速度の速い細胞はトリパノソーマの侍養細胞として適してないという報告があるので,上記の細胞に,その増殖を抑制するに足る最少量のX線を照射してから,侍養細胞として用いてみたが,Tgの増殖をたすけることに関して変化は認められなかった.Tgが高率に増殖する系では,Tgは侍養細胞の上に,あるいは細胞間にはいって,極めて密に接触した状態で増殖する.以上のことにより,侍養細胞から増殖因子が出ているのではない(出ているとしても限局された近傍でのみ有効)と考えられ,ただ細胞の増殖速度が遅いことだけでなく,細胞とTgとの間に密な接触をもたらすことがTgの増殖を推進するのに必要であると考えられる.
著者
ムハンド ピーター J.
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.105-118, 1988-06-30

Trypanosoma brucei gambienseの血流型原虫(TGBSF)を培養するにあたって,適した侍養細胞(feeder cell)を用いると,原虫は細胞に付着あるいは細胞間隙に巣を形成して増殖し,培養液中でも増えてくる.原虫が細胞と接してそのような巣を形成できないと原虫増殖は維持できず,結果としてその細胞は侍養細胞として不適である.この現象が原虫も含めて細胞の表面構造に関連していると想定して,単糖類および侍養細胞として用いた新生仔マウス脳細胞に対する家兎抗血清のTBGSF増殖に対する影響を検討した. 9種類の単糖類α-D-(+)-グルコース, D-(+)-ガラクトース, D-(+)-マンノース, α-D-(+)-フコース, D-(-)-リボース, D-(+)-キシロース, D-(-)-アラビノース, N-アセチル-D-グルコミサンそしてN-アセチル-D-ガラクトサミンを種々の濃度に加えみたところマンノースのみ1.25mM以上の濃度でTGBSFの増殖を阻害した.しかしプロサイクリック型に対してマンノースの影響はなかった.又侍養細胞に対する家兎抗血清はTGBSFの培養を阻害しなかった.用いた糖でマンノース以外の糖でもTGBSFの増殖阻害が認められたが,それは100mM以上の濃度でないと現れなかった.以上,その作用機序は不明ながら,マンノースが特異的にTGBSFの増殖を阻害することを見出した.
著者
小田 力 藤田 紘一郎 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.61-65, 1984-06-30

パプアニューギニアのダンフ,ケビェン及びラバウルの3地域でマラリアとデング熱の伝搬蚊について調査した.採集された蚊はAnopheles farauti, An. koliensis, An. punctulatus, Aedes aegypti, Ae. scutellaris,及びCulex pipiens quinquefasciatusの6種類であった.これら3種のハマダラカはわだちに水がたまって出来た泥水に発生していた.ダンフにおいてはAn. punctulatusがマラリアの主要伝搬蚊と考えられる.また,この地域ではデング熱の主要伝搬蚊であるAedes aegyptiとAe. scutellarisも採集された.前者の主要発生源は屋内では花びんのような人工的容器で,屋外では水のたまった古タイヤであった.後者の発生源も屋外の古タイヤであった.Collections of vector mosquitoes were made in three areas of Papua New Guinea. Mosquitoes collected were of the following 6 species: Anopheles farauti, An. koliensis, An. punctulatus, Aedes aegypti, Ae. scutellaris, Culex pipiens quinquefasciatus. Three species of Anopheline mosquitoes were commonly found in muddy pools such as wheel ruts at the roadsides, and among them An. punctulatus was assumed to be the primary vector of malaria in the area of Danfu, where also Ae, aegypti and Ae. scutellaris, the major vectors of dengue fever, were collected. The main breeding places for Ae. aegypti were artifitial containers such as flower vases indoors and discarded tires outdoors, the latter being the main breeding place for Ae. scutellaris.
著者
森田(分藤) 桂子 TORRES Cleotilde A. CHANYASANHA Charnchudhit LINN MAY LA 五十嵐 章
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.101-114, 1986-06-30

日本脳炎とデング出血熱患者血清のIgG-ELISA抗体反応を微量間接ELISA法により日本脳炎ウイルスとデングウイルス1型抗原を用いて測定した。日本の日本脳炎患者とタイ国の脳炎初感染患者は日本脳炎抗原に対して特異的反応を示したが,デング出血熱患者は初感染の場合でも日本脳炎とデング1型抗原の両方に対して交差反応性を示した.Antibody responses in sera from Japanese encephalitis (JE) and dengue hemorrhagic fever (DHF) cases were measured by the indirect micro ELISA using JE and dengue type 1 (D1) antigens. The responses of JE cases in Japan and primary encephalitis cases in Thailand were rather monospecific to JE antigen, in contrast to DHF cases whose antibody responses were cross-reactive to JE and D1 antigens even in the primary infection.
著者
和田 義人 茂木 幹義 小田 力 森 章夫 鈴木 博 林 薫 宮城 一郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.187-199, 1976-02-28

奄美大島において1972-1975年に蚊の調査を行なった.成虫は畜舎にかけたライトトラップ及び野外でのドライアイストラップにより,幼虫はその発生場所において,1年を通じて採集を行なった.その結果31種の蚊が得られた.上記の方法による採集の記録と,野外で採集した幼虫の飼育の記録とから,各々の種の,特に冬季における,生態について記載した.また,奄美大島での日本脳炎ウイルスの越冬について,伝搬蚊コガタアカイエカの生態の面から考察を加え,ウイルスの越冬が可能なのは,冬の気温が高く,蚊-豚の感染サイクルが持続する場合においてのみであると結論した.Mosquitoes were investigated on Amami-Oshima Island in 1972-1975. Adults were collected by light traps at animal shelters and by dry ice traps in the field, and larvae at their breeding sites in the whole year. In total, 31 species of mosquitoes were found. From the mosquito catches by the above methods together with the rearing records of some larvae collected in the field, the biology of each mosquito particularly in the winter time was reported. Also, the possibility of the overwintering of Japanese encephalitis virus on Amami-Oshima was discussed on the basis of the biology of the vector mosquito, Culex tritaeniorhynchus. It was considered that the successful overwintering of the virus is attained only by the succession of the pig-mosquito cycle maintained by the continuous feeding activity of the vector mosquitoes in warm winter.
著者
Wada Yoshito Kawai Senji Oda Tsutomu Miyagi Ichiro Suenaga Osamu Nishigaki Jojiro Omori Nanzaburo Takahashi Katsumi Matsuo Reizo Itoh Tatsuya Takatsuki Yoshiyuki
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.37-44, 1969-03-31
被引用文献数
2

To make clear the dispersal of Culex tntaeniorhynchus females in rather hilly Nagasaki area, a mark-and-recapture method was applied in summer, 1967. From 3 points, differently marked 156,500 females in total were released at 4 AM, July 29, and recapture catches were made by light traps at 19 points in the area of 8km×10km on 7 succeeding nights from the release. From the results obtained, it is seen that (1) the females disperse generally along valleys and seacoast; (2) usual flight range seems to be at least 1.0km; (3) some of the females have an ability to fly at least 2.0km without landing, and to disperse at least 8.4km. Also a method of estimating daily loss rate of the released females by the daily recapture data was described.長崎県は一般に平地に乏しく,海岸近くや小さな谷に沿って村落や水田が発達している所が多い.このような地形の複雑な地方でのコガタアカイエカの分散状況を明らかにするために,長崎市街地の東北に隣接する東西約8Km南北約10Kmの地域で,記号放逐法による分散実験を行った.上記地域に合計19地点を選び,その中の3ケ所から異った螢光色素でマークしたコガタアカイエカの雌成虫計約156,500個体を7月29日午前4時に放逐し,その夜から7日間毎夜全地点において畜舎に或いはドライアイスと共に野外に設置したライトトラップを用いて採集し,その中に含まれているマークされた蚊を放逐地点別に記録した.その結果は次のように要約される.(1)放逐した約156,500個体の中231個体(0.15%)が回収された.(2)放逐蚊は,岡をさけて谷間沿いに或いは海岸沿いに飛翔分散する個体が多い.(3)放逐第1日の最大飛期距離は5.1Kmであり,回収全期間7日間の最大は8.4Km平均は1.0Kmであったことから,コガタアカイエカの飛翔能力はかなり大きく,少なく共1Kmは通常の行動範囲内に入るものと思われる.(4)海岸近くで放逐したものの1個体が標高210mの峠を越えて2.3Km離れた,長崎市街地のすぐ近くの1地点で回収されたことは,峠を越えて市街地へ侵入するコガタアカエカの数が少なくないことを想像させるものである.(5)回収個体数の経日的減少状況から,日生存率の推定値として0.4888を得た.こゝでは調査地域外へ移動した,或いは吸血により採集対象外となったものは死亡として計算したので,上記の値は多少過少評価されている.
著者
千馬 正敬 板倉 英世 山下 裕人
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.93-96, 1984-06-30

アンモニア性銀溶液は病理組織切片の細網線維染色のために世界に広く使用されている.しかしながら,組織染色に使用したアンモニア性銀溶液は黒色の雷酸銀が生成され爆発することがある.この危険は同染色に使用するチオ硫酸ナトリウムを等量,アンモニア性銀溶液の中に加えることにより爆発物質である雷酸銀の生成を未然に防止できる.The ammoniacal silver nitrate solution has been routinly used widely for the purpose of staining of reticulum fibers. However, the used ammoniacal silver nitrate solution may cause explosion due to formation of blackish silver fulminate. (AgONC) in the solution. This possible danger could be prevented by addition of an equal volume of the used sodium thiosulfate into the used ammoniacal silver nitrate solution.
著者
大渡 伸 藤原 真理子 岩元 純 范 育仁 土屋 勝彦 小坂 光男 HW Soeliadi
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.235-241, 1983-12-28

熱帯地住民は暑さに強い事がよく知られている.彼等は,躯幹に比べ四肢が長く,体重当たりの体表面積が大きく,体構成では,皮下脂肪が少なく,能動汗腺総数の増加が見られる等,放熱に有利な特徴を備えている.これらの差異を知る事は,暑熱環境への順化のメカニズムを考える上で重要であると思われる.そこで我々は,熱放散反応のなかから,特に発汗現象に注目し,熱帯地住民を被験者として,一定条件(気温30℃相対湿度60%)下で局所温度負荷をかけ発汗を誘発した.それに伴う深部体温と皮膚温の変化は,それぞれ舌下に入れたサーミスター温度計と,前胸部をサーモグラフィでモニターした.その結果,両膝下部を43~44℃の温湯に30分つけるという局所負荷で,被験者の負荷開始時点から発汗までの潜時は10分であった.比較の為に同一条件で行った日本人による実験では,被験者は,負荷以前に発汗してしまい,潜時は測定出来なかった.この事から,被験者となった熱帯地住民は,日本人被験者に比べ,発汗までの潜時が非常に長い事がわかった.この理由としては,暑熱環境に順化した人の方が非順化人よりも,発汗に関する深部体温の閾値が高いかあるいは刺激前の深部温度が低い為に,同じ強さの温度負荷に対しても,発汗までの潜時が長いという可能性が考えられる.今後データの集積をはかり,更に詳細について検討していく所存である.The sweating response evoked by a local heat load was studied in an inhabitant of tropics in a climatic chamber. The change of skin temperature according to sweating was monitored by thermography. Time lag of the onset of sweating in the subject was about 10 minutes after initiation of a heat load. In such a condition, a Japanese volunteer sweated instantly without any heat load. The central and peripheral mechanism of heat acclimatization was discussed from the aspects of temperature regulation.
著者
ZAITSU M.
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.141-154, 1988-06-30
被引用文献数
1

チカイエカの犬フィラリアに対する伝搬能力を同じアカイエカ群に属し,長崎市内での犬フィラリアの主要伝搬蚊であるアカイエカと比較した.実験室内において,種々の程度のミクロフィラリア密度(800-5000/30mm^3)を持つ犬から長崎産のチカイエカとアカイエカを吸血させた.吸血した蚊は,気温25℃,湿度70%, 16時間照明の条件下で15日間飼育した.その結果,蚊でのミクロフィラリアの中腸へのとり込み方と,ミクロフィラリアのマルピーギ管への移動の割合には,両者の蚊で差は認められなかった.しかし,吸血蚊の15日目の生存率はチカイエカ(0.0-20.8%)の方がアカイエカ(41.2-81.8%)にくらべ著しく低かった.また,チカイエカの実験感染指数は,どのミクロフィラリア密度の実験でも,アカイエカより低かった.さらに,野外においてライトトラップを用いてアカイエカ群成虫を採集し,それらについて犬フィラリア感染率をしらべた.調査は長崎大学医学部構内とそこから約2km離れたアパートで,1986年と1987年の4月から11月上旬に行なった.チカエイカとアカイエカは個眼数の違いによって判別した. 2ヶ年の結果を合計すると,チカイエカの自然感染率は0.4%,アカイエカでは5.4%で,チカイエカの方がアカイエカにくらべて著しく低いことがわかった.以上の実験感染と自然感染の結果から,野外におけるチカイエカの犬フィラリア伝搬に対する役割は,アカイエカにくらべて極めて低いものと結論された.The vector potential to Dirofilaria immitis of Culex pipiens molestus, a member of the Culex pipiens complex, was compared with that of Culex pipiens pallens, another member of the complex. In the laboratory, both mosquitoes were fed on a dog with various levels of microfilaremia. The mean number of microfilariae taken up by the mosquitoes and the rate of migration to Malpighian tubules for Cx. p. molestus was similar to that for Cx. p. pallens. However, the survival rate of Cx. p. molestus after feeding on the dog was lower than that of Cx. p. pallens. The lower survival rate of Cx. p. molestus was the main cause of the lower index of experimental infection. By a light trap, females of Culex pipiens complex were collected at two sites in Nagasaki City in 1986 and 1987. Cx. p. molestus was distinguished from Cx. p. pallens by the number of ommatidia in the compound eyes. Mosquitoes were dissected and examined for the presence of D. immitis larvae in proboscis, thorax, abdomen and Malpighian tubules. Natural infection rate of Cx. p. pollens was distinctly higher than that of Cx. p. molestus. Results of experimental infection and field survey clearly indicate that Cx. p. molestus is apparently not as important as Cx. p pallens in the transmission of D. immitis.