著者
森 章夫 小田 力 和田 義人
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.79-90, 1981-06-30

ヒトスジシマカの休眠卵は低温短日下で育った雌成虫によって産まれるが,卵休眠を誘起する温度,日長条件に最も感受性が高いのは蛹と成虫期であった.長崎では9月中旬から休眠卵が多くなり,10月下旬には産まれる卵がすべて休眠卵であった.休眠卵は翌年2月頃覚醒するまでは孵化することはなく,屋外では3月中旬から5月下旬にかけて孵化する.しかし,非休眠卵でもある程度の耐寒性を備えており乾燥していたりすると越冬も可能である.それゆえ休眠卵は秋に卵が孵化し冬の寒さで幼虫が死滅することを防ぐのに役立っていると考えられる.Diapausing eggs of Aedes albopictus are laid by females reared under the condition of low temperature and short photoperiod. The pupa and the adult are sensitive stages to temperature and photoperiod in the induction of egg diapause. In Nagasaki, diapausing eggs increase in mid September, and all eggs laid after October are in diapause. These diapausing eggs overwinter, and would not hatch until the diapause is broken in February of the next year. Hatching of diapausing eggs begins in mid March and continues until late May. Through some non-diapausing eggs can overwinter, it is sure that most overwintering eggs are in diapause in the field. It seems that the advantage of egg diapause is to prevent eggs from hatching before winter.
著者
鈴木 寛 ジャスト パランギョ キサリ 福本 美枝 松本 慶蔵 麻生 卓郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.255-260, 1985-12-28

1982年以降,長崎県内においてもつつがむし病の散発的発症例が報告されるようになった。そこで,長崎県内におけるリケッチア・ツツガムシによる汚染地を調べるために,各地(長崎市,島原市,福江市,大瀬戸町,若松町,有川町,新魚目町)のいわゆる健康人を対象として,リケッチア・ツツガムシに対する抗体を測定した.尚,抗体は抗原としてギリアム株を用いたimmune peroxidase法によりIgGおよびIgM抗体が測定された.各地における抗体陽性率は2%(島原市)から60%(新魚目町)に分布していた.地域間の比較では,新魚目町と有川町の抗体陽性率と抗体分布レベルが他の地域よりも有意に高く,さらに,これらの2地域の対象のみからIgM抗体が検出された.そこで,長崎県内においては,調査した7地域のうち2地域がリケッチア・ツツガムシによる汚染地であると推定された.
著者
Kurahashi Hiromu Suenaga Osamu
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1,2, pp.1-5, 1991-06-29

Tricycleopsis paradoxa Villeneuve is newly recorded from the mainlands, Honshu, Shikoku and Kyushu, Japan. The female is redescribed in detail. The illustration of ovipositor is given for the first time. A key is provided to distinguish it from the Japanese endemic species, T. tibialis Kurahashi.
著者
末永 斂 黒川 憲次 和田 義人
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.47-54, 1987-03-31

多系統の蚊を累代飼育する場合,なるべく手間のかかならい飼育法の開発が望まれる.蚊成虫の飼育には通常,砂糖水を脱脂綿に含ませて栄養として与えているが,その場合,1~数日置きに新しいものと交換するか,新しい砂糖水を補充しなければならない.われわれは市販の角砂糖と汲み置きの水道水とを別々の容器に入れて与え,成虫を飼育することに成功した.飼育に使用するケージは大きさが200×200×300mmの針金枠にテトロンゴース製の袋をかぶせたもので,このケージを230×320×2mmの塩化ビニール板の上に載せて使用する.このケージ1個で飼育できる成虫数は約1,000個体以内である.ケージの内部には水道水を満たした90mlのプラスチックコップと角砂糖2~3個(蚊の個体数による)を載せた同コップの蓋をそう入する.成虫はコップの水を飲み,角砂糖をだ液で液かして摂取することにより, 2~3週間放置しても健康な状態で生存し,その後でもマウスから吸血し,産卵する.蚊の生存率,吸血率,産卵率,及び卵の孵化率は羽化して約1週間後から多少低下するが,次世代を得るのに支障はない.飼育室内は温度約25℃,湿度約70%,薄明・薄暮を含む長日照明の状態に保つことが望ましい.湿度が高すぎると角砂糖が溶け出し,また低すぎるとコップの水が早くなくなるので共に避けなければならない。出張などで10日間以上放置する場合には,角砂糖を更新し,水の量を多くする.角砂糖の表面が甚だしく汚れた場合には,表面をナイフの縁などで削り落して新しい面を出すことにより再使用できる.われわれはこの方法で,アカイエカ群の数系統の蚊を6年以上にわたり累代飼育している.Although the soaked cotton pad method seems to be the most commonly used technique for providing the sugar solution for adult mosquitoes, the cotton pad must be exchanged with a fresh one at an appropriate interval. For this reason, we examined the cube sugar technique to save us the trouble of handling mosquitoes in the laboratory for rearing several mosquitoes, Culex pipiens complex, Aedes togoi and Armigeres subalbatus. The results showed that this technique seems to be very useful to rear the adult mosquitoes, though the blood feeding rate in cube sugar group was slightly lower than that in 1-5% sugar solution groups. We are maintaining several strains of Cx. pipiens complex successfully by using this technique over 6 years.
著者
末永 斂 劉 維徳 繆 建吾 徐 薇
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.p229-234, 1982-12

アカイエカの産卵活動の季節的推移が1981年8月から1982年7月までの1年間にわたり上海市内の復興公園で調べられた.容量約10lの水がめに水をはり,少量の麩を入れてイエカ用の産卵容器とし,これを公園の一角の人家に隣接した木蔭に設置した.この水がめを毎朝点検し,水表面に産み落されているすべての卵塊を採集して卵塊別に小容器に収容し,27℃の恒温室内で2~3日間放置してそれらの孵化状況を調べた.その結果次のことが明らかになった.アカイエカの産卵活動は平均最高気温が30℃を越す夏の間はむしろ低調である.年間を通じて2つの活動の山があり,最盛期は8月下旬から9月上旬にかけてみられ,もう一つの山は7月上旬頃にみられる.11月下旬から翌年4月上旬までの最高平均気温が10℃以下を示す寒い期間は産卵活動がみられない.1982年春最初の卵塊は5月上旬の最高平均気温が23.9℃,最低平均気温が15.0℃のときに採集された.この蚊の活動の消長は年により,地理的,気候的及び環境的条件によって異なると思われるが,上海におけるアカイエカの産卵活動の季節的推移の型は日本におけるこの蚊の成虫の季節的消長の型に似ているようである.The seasonal change in the oviposition activity of Culex pipiens pollens was observed at Fuxing Gongyuan (Renaissance Park), Shanghai for one year from August, 1981 through July 1982. An earthen jar of about 10 litters in size and containing wheat bran solution was set up as an ovi-trap for house mosquitoes in a corner of the park. All egg rafts of Culex pipiens complex, which were deposited on the water surface in the jar, were picked up every morning and examined for hatching in the laboratory. From the results of the survey, the oviposition activity of Cx. p. pollens in Shanghai seems to be rather low during the summer when the maximum temperatures are over about 30 C. Two clear peaks of the activity were observed; higher peak was in late August through early September and lower one was in early July. No egg rafts were found from late November, 1981 to late April, next year, when the maximum temperatures were below about 10C. The first egg rafts in 1982 were collected in the begining of May when the temperatures were 23.9C (Mean Max.) and 15.0C (Mean Min.). Although the seasonal distribution of activity seems to be different every year by climatic and environmental conditions, the pattern of seasonal change in the oviposition activity of Cx. p. pallens in Shanghai is similar to the pattern of seasonal distribution in adults of this mosquito in Japan.
著者
鈴木 寛 山本 由美子 松本 慶蔵 麻生 卓郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.119-127, 1988-06-30

長崎県において,つつが虫痛が発生している平島(283名)と発生していない江ノ島(270名)の住民を対象として,リケッチア・ツツガムシ感染症に関する血清疫学的研究を行った.IgG抗体は抗原としてギリアム株を用い,酵素抗体法により測定した.全住民に対する抗体陽性率は平島(33.2%)が江ノ島(22.6%)より高値であったが,抗体レベルは平島(1.65±0.47)より江ノ島(1.88±0.47)で高値であった.年齢別抗体の陽性率とレベルの比較では,平島では19才以下が40才以上より高値であったが,江ノ島では差異を見い出し得なかった.これらの成績は平島では年齢による感染時期の差,つまり若年者が比較的最近感染し,江ノ島では全住民が同じ時期に感染していること,更に,つつが虫病患者が発生していない江ノ島においても弱毒性リケッチア・ツツガムシが存在していることを示唆した.
著者
佐藤 克之 野田 伸一 Miguwe David K. Ziro Gideon N. Muhoho Ngethe D.
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.197-202, 1985-12-28

ビルハルツ住血吸虫症の流行地であるケニア国クワレ地区ムワチンガ村において,住民によく利用されている水系から,特に利用頻度の高い2ケ所(Site 6,Site 19)を選び,水中のセルカリア密度を,Prentice(1984)の方法を用いて測定した。さらにセルカリアの種を同定するために,4匹ずつの未感染ハムスターを調査地の水に暴露し,約3カ月後剖検して住血吸虫の感染の有無について調べた.Site 6では,401の水からわずかに1隻のセルカリアが回収されただけで,4匹のハムスターには,いずれも住血吸虫の感染は見られなかった.これに対して,Site 19では81の水から231隻のセルカリアが検出され,また4匹のハムスターからも,合計31個体の住血吸虫成虫(雄20,雌11)が回収された.これらのハムスターの肝臓には多数の住血吸虫卵が見い出され,形態学的特徴からビルハルツ住血吸虫のものと同定された.住血吸虫症流行地のいろいろな水系の水の危険度を測定する際のセルカリオメトリーの有用性について考察した.
著者
佐藤 克之 勝又 達哉 青木 克己 野田 伸一 Muhoho Ngethe D.
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.81-85, 1987-06-30

ビルハルツ住血吸虫症の流行地であるケニア国クワレ地区ムワチンガ村において,住民によく利用されている水系から,特に利用頻度の高い2ヶ所(Site 6, Site 19)を選び,水中セルカリア密度の日内変動をセルカリオメトリーにより測定した.測定は,メトリフォネートによる集団治療と水道水供給とを組み合わせたコントロール対策実施の前後2回にわたって行なった.(1983年11月及び1984年8月)Site 19では,コントロール対策実施前には,90リットルの水から合計567隻のセルカリアが検出され,水中のセルカリア密度は正午をピークとする日内変動を示した.コントロール対策実施後6ヶ月経た時点でも,90リットルの水から354隻のセルカリアが回収され,水中セルカリア密度は13時をピークとする日内変動を示した.このことから,Site 19では正午から午後1時にかけて感染の危険度が最も高く,早朝や夕方は低いことが考えられる.また,コントロール実施後でも、まだ感染の危険が相当残っていることが明らかとなった。一方, Site 6ではコントロール対策実施前に180リットルの水から2隻のセルカリアが検出されただけで,コントロール実施後には,セルカリアは回収されなかった。このようにもともとセルカリア密度の低い水系では,本実験で用いたセルカリオメトリーでコントロール対策が住血吸虫症の伝搬に及ぼす効果について評価することは困難と思われる.住血吸虫症コントロール対策が感染の危険度の減少に及ぼす効果を判定する際に,セルカリオメトリーを用いた場合の問題点について考察した.
著者
福見 秀雄 林 薫 三舟 求真人 七条 明久 松尾 幸子 大森 南三郎 和田 義人 小田 何 茂木 幹義 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.p97-110, 1975-12

長崎地方における日本脳炎(日脳)ウイルスの生態学的研究のうち1964年から1973年に至る10年長間の調査成績を総括し解析を加えた.日脳ウイルスの主媒介蚊であるコガタアカイエカのウイルス感染の拡がりは媒介蚊の密度が最高に達する以前か或いはその時間に一致しているのが例年の様相である.また,人の日脳流行は主に豚の日脳感染が始まる頃の媒介蚊の密度によって影響されるようである.過去10年,相当の大量の越年コガタアカイイカ雌成虫から日脳ウイルスの分離を試みたが,いずれも不成功に終った.このことは蚊体内におけるウイルスの越年の可能性は南方諸地域とは異ることが推察される.
著者
林 薫 三舟 求真人 七条 明久 鈴木 博 松尾 幸子 牧野 芳大 明石 光伸 和田 義人 小田 力 茂木 幹義 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.p129-142, 1975-12

1973年2月3日から18日の間,新生成虫が検出されない時期に野外で捕集した冬期のコガタアカイエカ1083個体,8プールから4株のウイルスを分離し,日本脳炎(日脳)ウイルスと同定された.この事実は,越年蚊体内でウイルスが持ち越されたものと考えられる.そして1973年には年間を通じて,蚊一豚の感染環が証明され,奄美大島,瀬戸内地域における日脳ウイルスの特異な撒布状況が観察された.この所見は我国で初めてのことである.しかしながら,1974年では,コガタアカイエカから7月上旬にはじめてウイルスが分離されると共に,これと平行して豚の新感染も同時に証明された.この事は蚊一豚の感染環,特に蚊によるウイルスの越年が中絶したことを意味すると共に,奄美大島の調査地域へのウイルスの持込みがあったに違いないことを物語るものであろう.換言すれば,奄美大島の調査地域では環境条件さえよければウイルスの土着が可能であるが,条件が悪いと蚊によるウイルスの越年は中絶し,流行期に再びウイルスの持込みが行われるであろうことを推定してよいと思われる.1973年7月24日夜半から25日未明にかけて奄美大島名瀬港及び鹿児島港の中間の海上で,船のマスト上にとりつけられたライトトラップ採集でコガタアカイエカ数個体を捕集した.この事実はコガタアカイエカが洋上を移動していることを意味しているものと考えられる.1975年7月下旬,奄美大島から鹿児島(九州南域)に向け,標色コガタアカイエカの分散実験を試みたが,遇然に実験地域を通過した台風2号で阻止され不成功に終った.しかし,分散実験日の約10日前にフイリッピンからの迷蝶が鹿児島南端に到達していることから気流によるコガタアカイエカの移動は決して否定出来ない.
著者
ムハンド ピーター 柳 哲雄 福間 利英 中澤 秀介 神原 廣二
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.27-36, 1987-03-31

Trypanosoma brucei gambiense (Tg) Wellcome株の培養に,侍養細胞としてICRマウス新生仔由来細胞を用いると,新しく分離された脳及び筋由来細胞はTgの増殖をたすけるが,分離後40日を経過し,増殖が確立した脳及び筋由来細胞は侍養細胞としての能力を失う.新しく分離された細胞でも腎由来細胞はTgの増殖をたすけない.Tgを侍養するか否かに関して増殖因子の有無について検討した.Tgを侍養する細胞を培養皿の半面に,他の半面に侍養しない細胞を播いて,その上でTgを培養したところ,前者の側でのみTgは増殖した.増殖速度の速い細胞はトリパノソーマの侍養細胞として適してないという報告があるので,上記の細胞に,その増殖を抑制するに足る最少量のX線を照射してから,侍養細胞として用いてみたが,Tgの増殖をたすけることに関して変化は認められなかった.Tgが高率に増殖する系では,Tgは侍養細胞の上に,あるいは細胞間にはいって,極めて密に接触した状態で増殖する.以上のことにより,侍養細胞から増殖因子が出ているのではない(出ているとしても限局された近傍でのみ有効)と考えられ,ただ細胞の増殖速度が遅いことだけでなく,細胞とTgとの間に密な接触をもたらすことがTgの増殖を推進するのに必要であると考えられる.
著者
ムハンド ピーター J.
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.105-118, 1988-06-30

Trypanosoma brucei gambienseの血流型原虫(TGBSF)を培養するにあたって,適した侍養細胞(feeder cell)を用いると,原虫は細胞に付着あるいは細胞間隙に巣を形成して増殖し,培養液中でも増えてくる.原虫が細胞と接してそのような巣を形成できないと原虫増殖は維持できず,結果としてその細胞は侍養細胞として不適である.この現象が原虫も含めて細胞の表面構造に関連していると想定して,単糖類および侍養細胞として用いた新生仔マウス脳細胞に対する家兎抗血清のTBGSF増殖に対する影響を検討した. 9種類の単糖類α-D-(+)-グルコース, D-(+)-ガラクトース, D-(+)-マンノース, α-D-(+)-フコース, D-(-)-リボース, D-(+)-キシロース, D-(-)-アラビノース, N-アセチル-D-グルコミサンそしてN-アセチル-D-ガラクトサミンを種々の濃度に加えみたところマンノースのみ1.25mM以上の濃度でTGBSFの増殖を阻害した.しかしプロサイクリック型に対してマンノースの影響はなかった.又侍養細胞に対する家兎抗血清はTGBSFの培養を阻害しなかった.用いた糖でマンノース以外の糖でもTGBSFの増殖阻害が認められたが,それは100mM以上の濃度でないと現れなかった.以上,その作用機序は不明ながら,マンノースが特異的にTGBSFの増殖を阻害することを見出した.
著者
林 薫 三舟 求真人 七条 明久 鈴木 博 松尾 幸子 牧野 芳大 明石 光伸 和田 義人 小田 力 茂木 幹義 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.p129-142, 1975-12

1973年2月3日から18日の間,新生成虫が検出されない時期に野外で捕集した冬期のコガタアカイエカ1083個体,8プールから4株のウイルスを分離し,日本脳炎(日脳)ウイルスと同定された.この事実は,越年蚊体内でウイルスが持ち越されたものと考えられる.そして1973年には年間を通じて,蚊一豚の感染環が証明され,奄美大島,瀬戸内地域における日脳ウイルスの特異な撒布状況が観察された.この所見は我国で初めてのことである.しかしながら,1974年では,コガタアカイエカから7月上旬にはじめてウイルスが分離されると共に,これと平行して豚の新感染も同時に証明された.この事は蚊一豚の感染環,特に蚊によるウイルスの越年が中絶したことを意味すると共に,奄美大島の調査地域へのウイルスの持込みがあったに違いないことを物語るものであろう.換言すれば,奄美大島の調査地域では環境条件さえよければウイルスの土着が可能であるが,条件が悪いと蚊によるウイルスの越年は中絶し,流行期に再びウイルスの持込みが行われるであろうことを推定してよいと思われる.1973年7月24日夜半から25日未明にかけて奄美大島名瀬港及び鹿児島港の中間の海上で,船のマスト上にとりつけられたライトトラップ採集でコガタアカイエカ数個体を捕集した.この事実はコガタアカイエカが洋上を移動していることを意味しているものと考えられる.1975年7月下旬,奄美大島から鹿児島(九州南域)に向け,標色コガタアカイエカの分散実験を試みたが,遇然に実験地域を通過した台風2号で阻止され不成功に終った.しかし,分散実験日の約10日前にフイリッピンからの迷蝶が鹿児島南端に到達していることから気流によるコガタアカイエカの移動は決して否定出来ない.Characteristics of the ecology of Japanese encephalitis (JE) virus dissemination were investigated in Amami island located between the southern part of Kyushu and the main island of Okinawa. Four strains identified as JE virus were isolated from 8 pools of 1083 hibernated female mosquitoes of Culex tritaeniorhynchus caught in the field from 3rd to 18th February, 1973, before the appearance of newly emerged vector mosquitoes. This finding suggested the overwintering of the virus in the vector mosquitoes in survey areas. The virus dissemination in the survey area in 1973 was observed through the year in connection with the cycle of vector mosquitoes and pigs infection. In 1974, however, the virus isolation from vector mosquitoes was performed in July. This evidence indicated the interruption of the persistence of the virus in vector mosquitoes and the virus might be carried into the survey area in Amami island. These findings were of great significance in connection with the problems on the overwintering of JE virus in Japan. In the midnight on 24th to the very early morning on 25th July, 1973, mosquitoes of Culex tritaeniorhynchus were captured with the light traps set up on the ship sailing between the south part of Kyushu (Kagoshima) and Amami island. This finding suggest that vector mosquitoes might be transported with the wind over the ocean. In accordance with these evidence, the attempt to disperse mosquitoes of Culex tritaeniorhynchus experimentally labeled with dyes from Amami island to the southern part of Kyushu (Kagoshima) was made under the selected condition of the weather in the end part of July, 1975. It was, however, unsuccessful with hindering of occassionally happened typhoon.
著者
小田 力 藤田 紘一郎 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.61-65, 1984-06-30

パプアニューギニアのダンフ,ケビェン及びラバウルの3地域でマラリアとデング熱の伝搬蚊について調査した.採集された蚊はAnopheles farauti, An. koliensis, An. punctulatus, Aedes aegypti, Ae. scutellaris,及びCulex pipiens quinquefasciatusの6種類であった.これら3種のハマダラカはわだちに水がたまって出来た泥水に発生していた.ダンフにおいてはAn. punctulatusがマラリアの主要伝搬蚊と考えられる.また,この地域ではデング熱の主要伝搬蚊であるAedes aegyptiとAe. scutellarisも採集された.前者の主要発生源は屋内では花びんのような人工的容器で,屋外では水のたまった古タイヤであった.後者の発生源も屋外の古タイヤであった.Collections of vector mosquitoes were made in three areas of Papua New Guinea. Mosquitoes collected were of the following 6 species: Anopheles farauti, An. koliensis, An. punctulatus, Aedes aegypti, Ae. scutellaris, Culex pipiens quinquefasciatus. Three species of Anopheline mosquitoes were commonly found in muddy pools such as wheel ruts at the roadsides, and among them An. punctulatus was assumed to be the primary vector of malaria in the area of Danfu, where also Ae, aegypti and Ae. scutellaris, the major vectors of dengue fever, were collected. The main breeding places for Ae. aegypti were artifitial containers such as flower vases indoors and discarded tires outdoors, the latter being the main breeding place for Ae. scutellaris.
著者
岩本 功
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.124-137, 1972-09

For explanation of the mechanism of microfilarial periodicity, it is a basic problem to know the survival time of microfilaria in the host. Therefore, there have been reported several papers concerning the experimental investigations on it. Viewing these papers reported in the past, however, there is found a great difference in the survival times obtained by each investigator. This disagreement may due to the irrationality of procedual method employed in these studies. In the present study, the author attempts to discuss the longevity and viability of microfilaria in various conditions from the results obtained by using a new method originated by us. When the heparinized blood containing microfilaria is maintained in a test-tube, living microfilariae swarm together near the boundary area between the blood plasma and the blood cell sediment. Microfilariae were isolated from there by pippett, removed to the various kind of media in the watch-glass and then incubated in the glass capillaries. Under microscope, the activity of each microfilaria was checked until all microfilariae died and the numbers were counted every 8 hours. When the commulative mortality was drawn on logarithmic scale. a straight regression line could be obtained. The theoretical mean survival time can be represented by the 50 per cent value of mortality on this regression line. For this observation, microfilaria of Dirofilaria immitis and Wuchereria bancrofti were used and the total numbers in each group of the experiment were approximately 1,000-3,000. First of all, the viability was tested at various temperatures and in various media such as distilled water, physiological saline solution, and the blood plasma of animals and human beings. When one compares the mortality curves given by different temperatures from 5℃ to 37℃, it becomes clear that the survival time in vitro of microfilaria depends much on the temperature. Generally speaking, the survival time was longer in refrigerator at 5℃ than at room temperature of 20℃, while it was signifcantly short at 37℃. In physiological saline solution, the mean survival time of D. immitis microfilaria expressed by 50 per cent value was 216 hours at 5℃, 61 hours at 21℃, 9 hours at 37℃ respectively, but in each group, the last microfilaria was remained alive for 426 hours, 352 hours and 48 hours after all others died out. The survival time was also influenced by the kind of media in which microfilariae were incubated, for example, the mean survival time of D. immitis microfilaria at room temperature was approximately 74 hours in distilled water, 61 hours in physiological saline solution and 216 hours in the rabbit blood plasma, and it was longest in the blood plasma of non-infected dogs as long as 254 hours. It was of interest to note that the blood plasma of infected dog tend to reduce the survival time of D. immitis microfilaria. The survival time of bancroftian type microfilaria in vitro as compared to that of dog heart worm was relatively short in any conditions, especially the viability was found markedly inhibited in the blood plasma of animals other than human being. This finding suggest that bancroftian filarial worm has the high specificity in adaptation to the host. In order to see the longevity of microfilaria in vivo, the living microfilariae were transfused intraveneously into fresh animals. In the dogs received intraveneous transfusion of the blood containing about 950,000-5,700,000 microfilariae of D. immitis, the microfilaria continued the emigration into the peripheral circulation for a long time at least more than 50 days, showing a nocturnal sub-periodic fluctuation in the number. However, the microfilariae transfused into rabbits disappeared from the peripheral blood within 21 days, during which the periodicity was rather indistinct. On the other hand, it was noticed that W. bancrofti microfilaria could not be demonstrated in the blood streams of recipient dog and rabbit, even if a large number of the larvae were given. However, of the animals which were autopsied immediately after tte transfusion, a moderate number of the living larva was usually recovered in the various organs such as the lung, liver and kidney.1)体外での仔虫の死亡経過は時間の対数と関係があり,50%値(MfMD_<50>)を求め,その仔虫群の平均生存時間とすることが出来る.2)仔虫の生存時間は5℃で最も長く,37℃になると早く死亡する.3)夫々対応宿主の血漿内で最も長く生存するが,感染宿主血漿は抑制的に働く.4)いかなる条件のもとでもバンクロフト仔虫は犬糸状虫のそれより生存時間が短く,人以外の動物血漿では早く死亡する.5)犬糸状虫仔虫は犬に移注されると長期にわたり末梢血中に出現し,夜間出現性を最後まで維持する.家兎の場合はにれより速やかに消失し,早期より夜間出現性の乱れがみられる.6)バンクロフト糸状虫仔虫は犬,家兎に移注を行っても末梢血内に出現せず,一部内臓や大血管に集積される.本論文要旨の一部は第21,22回日本寄生虫学会南日本支部大会(1968,1969)及び第38回日本寄生虫学会総会において報告した.稿を終るに当り,終始御指導,御校閲頂いた恩師片峰大助教授に深甚の謝意を表します.
著者
河合 潜二 和田 義人 大森 南三郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.58-64, 1967-03

Investigations on the swarm of Culex tritaeniorhynchus were carried out in the field in villages around Nagasaki and Isahaya Cities during from early spring through late autumn in 1965 and 1966. The swarms were ellipsoid, typically about 0.7×1.0-1.5m, in shape, and formed in the air at about 1.5m height, usually obliquely and sometimes right above the swells of grasses or shrubs; frequently by the dry ice traps; and sometimes under the eaves of animal sheds as shown in Figs.1 and 2. A swarm started usually at about sun-set and progressed through an increasing phase for 10 minutes, to a prosperous phase for some 15 minutes when the swarm contained one to two hundred males, and through a decreasing phase for some ten minutes they disappeared as shown in Fig.3. The starting time of the swarm was roughly parallel with the sunset time during the periods from April to June and after mid-October, while in from July to September the starting time became late by 10 to 15 minutes (Fig.4). When compared the seasonal prevalence of the population density in the swarms (males) which were found within a definite area and that of females which were found in a pig-shed, it was found that: In May and April, hibernated females were only found; from the end of April through the end of August the two prevalence curves passed over roughly in parallel; while, on September a sudden and great fall in the density of females took place and thereafter, in spite of near absence of females, the males continued to swarm till the beginning of November (Fig.5). The female rate to the total number of mosquitoes found in the typical swarm usually formed in the field was roughly 2.3% in an average and 9.1% in a maximal case. The rate was as high as 14.3% for average and 25.7% for maximum in the swarm formed by the dry ice traps probably owing to the joining to the swarm of the females which were attracted to CO_2 gas. The rate was intermediate between the above two in the case of the swarm formed under the eaves of animal-sheds. Seasonally, the rate was higher during the active feeding season of the mosquito than in those days when females had entered hibernation. During the process of swarming, the rate became higher in the decreasing phase owing to the gradual disappearing of males (Table 1). The swarm was formed at down, though for a shorter period and in a smaller scale than those formed in the evening. Within the swarm of this mosquito, mosquitoes of seven other species were found in a rare cases and in a very small numbers. The swarming of C. tritaeniorhynchus is considered to be closely related to the mating as mating is very frequently observed within the swarm.1. 1965, 1966年の早春から晩秋にかけて,長崎・諫早両市近郊の,数部落の水田地帯で,コガタアカイエカの群飛についての観察調査をおこなった.2.たけの高い草株,石垣,灌木,畜舎の軒先,水田わきに設置したドライアイストラップなどのように,周囲から一段と高く突出した物体の上または斜め上に,地上約1.5mの空間に,0.7×1.0~1.5mの楕円体として群飛の形成されることが多い.3.群飛は,一般に5-10個体に始まり,以後約10分間の段階的に増加する増加期,ふつう約100~200個体からなる15分間くらいの最盛期,約10分間の段階的な数の減少を示す減少期を経て解散に至る.4.群飛が,最初にみられた4月下旬から,最後にみられた11月下旬までを通じて,群飛の開始時刻は,大体においては日没時刻の季節的変化と平行的であるが,季節による歪みもみられる.すなわち,4~6月には群飛は日没頃に始まるが,7~9月には10~15分も遅く始まり,10月中旬以降は再び日没頃に開始される.5.一定方法で観察した群飛の,♂の個体群密度の季節的消長と,豚舎で定期的に採集した♀のそれとを比較すると,3~4月には越年♀だけが採集され,4月末新生成虫の発生以後は,♂と♀とはほぼ平行的に消長するが,9月に入ると♀は急激に減少しほとんど採れなくなる.しかし♂は9月にはなお盛んに活動しており,10月においてさえかなり活動して11月上旬まで続く.♀が越年に入ると思われる9月上旬以後,♂の群飛がなお11月上旬まで続いて観察されることは極めて興味のあることである.6.群飛中に見出だされる♀の割合については,時期により場所によって調査回数がまちまちであり非常に少ない場合もあるので,決定的な結論は下し得ないが,定期的な野外での群飛の場合には,最高9.1%,平均的には約2.3%であるが,♀を誘引するために設置したドライアイストラップ付近でのものでは最高25.7%,平均的には約14.3%と非常に高い.畜舎付近でみられるものでは,♀の比率がそれらあ中間にくる.季節的にみると,蚊の発生が盛んな時期に高く,10月以後は極めて低くなる.時間的には,群飛の減少期に特に高くなる傾向がみられる.7.朝方,日の出前約30分から,12~15分位のあいだ,小規模で継続時間の短かい群飛の生じることを確認した.8.本種の群飛中には,他の7種の蚊が採集されたが,そのような例は比較的稀であり,個体数も極めて少ない.
著者
森田(分藤) 桂子 TORRES Cleotilde A. CHANYASANHA Charnchudhit LINN MAY LA 五十嵐 章
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.101-114, 1986-06-30

日本脳炎とデング出血熱患者血清のIgG-ELISA抗体反応を微量間接ELISA法により日本脳炎ウイルスとデングウイルス1型抗原を用いて測定した。日本の日本脳炎患者とタイ国の脳炎初感染患者は日本脳炎抗原に対して特異的反応を示したが,デング出血熱患者は初感染の場合でも日本脳炎とデング1型抗原の両方に対して交差反応性を示した.Antibody responses in sera from Japanese encephalitis (JE) and dengue hemorrhagic fever (DHF) cases were measured by the indirect micro ELISA using JE and dengue type 1 (D1) antigens. The responses of JE cases in Japan and primary encephalitis cases in Thailand were rather monospecific to JE antigen, in contrast to DHF cases whose antibody responses were cross-reactive to JE and D1 antigens even in the primary infection.
著者
和田 義人 茂木 幹義 小田 力 森 章夫 鈴木 博 林 薫 宮城 一郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.187-199, 1976-02-28

奄美大島において1972-1975年に蚊の調査を行なった.成虫は畜舎にかけたライトトラップ及び野外でのドライアイストラップにより,幼虫はその発生場所において,1年を通じて採集を行なった.その結果31種の蚊が得られた.上記の方法による採集の記録と,野外で採集した幼虫の飼育の記録とから,各々の種の,特に冬季における,生態について記載した.また,奄美大島での日本脳炎ウイルスの越冬について,伝搬蚊コガタアカイエカの生態の面から考察を加え,ウイルスの越冬が可能なのは,冬の気温が高く,蚊-豚の感染サイクルが持続する場合においてのみであると結論した.Mosquitoes were investigated on Amami-Oshima Island in 1972-1975. Adults were collected by light traps at animal shelters and by dry ice traps in the field, and larvae at their breeding sites in the whole year. In total, 31 species of mosquitoes were found. From the mosquito catches by the above methods together with the rearing records of some larvae collected in the field, the biology of each mosquito particularly in the winter time was reported. Also, the possibility of the overwintering of Japanese encephalitis virus on Amami-Oshima was discussed on the basis of the biology of the vector mosquito, Culex tritaeniorhynchus. It was considered that the successful overwintering of the virus is attained only by the succession of the pig-mosquito cycle maintained by the continuous feeding activity of the vector mosquitoes in warm winter.
著者
Wada Yoshito Kawai Senji Oda Tsutomu Miyagi Ichiro Suenaga Osamu Nishigaki Jojiro Omori Nanzaburo Takahashi Katsumi Matsuo Reizo Itoh Tatsuya Takatsuki Yoshiyuki
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.37-44, 1969-03-31
被引用文献数
2

To make clear the dispersal of Culex tntaeniorhynchus females in rather hilly Nagasaki area, a mark-and-recapture method was applied in summer, 1967. From 3 points, differently marked 156,500 females in total were released at 4 AM, July 29, and recapture catches were made by light traps at 19 points in the area of 8km×10km on 7 succeeding nights from the release. From the results obtained, it is seen that (1) the females disperse generally along valleys and seacoast; (2) usual flight range seems to be at least 1.0km; (3) some of the females have an ability to fly at least 2.0km without landing, and to disperse at least 8.4km. Also a method of estimating daily loss rate of the released females by the daily recapture data was described.長崎県は一般に平地に乏しく,海岸近くや小さな谷に沿って村落や水田が発達している所が多い.このような地形の複雑な地方でのコガタアカイエカの分散状況を明らかにするために,長崎市街地の東北に隣接する東西約8Km南北約10Kmの地域で,記号放逐法による分散実験を行った.上記地域に合計19地点を選び,その中の3ケ所から異った螢光色素でマークしたコガタアカイエカの雌成虫計約156,500個体を7月29日午前4時に放逐し,その夜から7日間毎夜全地点において畜舎に或いはドライアイスと共に野外に設置したライトトラップを用いて採集し,その中に含まれているマークされた蚊を放逐地点別に記録した.その結果は次のように要約される.(1)放逐した約156,500個体の中231個体(0.15%)が回収された.(2)放逐蚊は,岡をさけて谷間沿いに或いは海岸沿いに飛翔分散する個体が多い.(3)放逐第1日の最大飛期距離は5.1Kmであり,回収全期間7日間の最大は8.4Km平均は1.0Kmであったことから,コガタアカイエカの飛翔能力はかなり大きく,少なく共1Kmは通常の行動範囲内に入るものと思われる.(4)海岸近くで放逐したものの1個体が標高210mの峠を越えて2.3Km離れた,長崎市街地のすぐ近くの1地点で回収されたことは,峠を越えて市街地へ侵入するコガタアカエカの数が少なくないことを想像させるものである.(5)回収個体数の経日的減少状況から,日生存率の推定値として0.4888を得た.こゝでは調査地域外へ移動した,或いは吸血により採集対象外となったものは死亡として計算したので,上記の値は多少過少評価されている.
著者
千馬 正敬 板倉 英世 山下 裕人
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.93-96, 1984-06-30

アンモニア性銀溶液は病理組織切片の細網線維染色のために世界に広く使用されている.しかしながら,組織染色に使用したアンモニア性銀溶液は黒色の雷酸銀が生成され爆発することがある.この危険は同染色に使用するチオ硫酸ナトリウムを等量,アンモニア性銀溶液の中に加えることにより爆発物質である雷酸銀の生成を未然に防止できる.The ammoniacal silver nitrate solution has been routinly used widely for the purpose of staining of reticulum fibers. However, the used ammoniacal silver nitrate solution may cause explosion due to formation of blackish silver fulminate. (AgONC) in the solution. This possible danger could be prevented by addition of an equal volume of the used sodium thiosulfate into the used ammoniacal silver nitrate solution.