著者
古怒田 望人 Konuta Asahi コヌタ アサヒ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.41, pp.95-110, 2020-03-31

人間学・人類学 : 論文エマニュエル・レヴィナスは、同時代の現象学者のなかでもとりわけ、その現象学の発端からセクシュアリティを一つの軸としていた。本論は、レヴィナスの主著である『全体性と無限』(1961)におけるセクシュアリティの現象学を「自己変容」という側面から解明し、レヴィナスのセクシュアリティの現象学を、セクシュアリティの文脈で具体的に展開する可能性を提示したい。第一節では、レヴィナスのセクシュアリティの現象学の先行研究の問題点を指摘し、この現象学が「生殖」中心主義とは異なった「セクシュアルな自己変容」としてセクシュアリティを記述しているという展望を示す。第二節では、この「セクシュアルな自己変容」の記述がどのような文脈においてなされたのかを解明するために、30年代のレヴィナスの記述にまで遡り、ナチズムにおける生物学決定論に対するレヴィナスの批判との関連性を示す。第三節では、レヴィナスの「セクシュアルな自己変容」の記述がこの決定論を覆す現象であることを概観しつつ、レヴィナスのセクシュアリティの現象学が「男/女二元論的性差」の二項対立を素朴に措定しているものではないことを示す。最後に、第四節において、そもそもなぜレヴィナスはこのような「セクシュアルな自己変容」の記述を必要としたのか、またそのセクシュアルな自己変容の体験における「曖昧さ=両義性」から、この現象学の臨床的な意義を提示したい。Emmanuel Levinas (1906–1995) referred to sexuality more often than his contemporaries in the field of phenomenology. In this paper, we aim to clarify the description of sexual self-transformation presented in his main work, Totality and Infi nity (1961), with a primary focus on why Levinas so strongly emphasized nonreproductive sexual acts such as petting. In doing so, we highlight the signifi cance of his description of sexual self-transformation from a clinical perspective.