著者
Kubo Erika B. 楳田 高士 吉田 宗平 森 一功
出版者
関西鍼灸大学
雑誌
関西鍼灸大学紀要 (ISSN:09129545)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.66-71, 2006-05-26

患者は2003年2月に左頚部神経鞘腫切除術を受けた28歳の女性で、術後、ホルネル症候群が出現、頚部の突っ張り、咀嚼時痛がひどくなり、肩凝りもひどくなった。さらに、不眠、月経困難とそれに伴う腰痛なども愁訴として認められた。2004年1月末に鍼治療を開始し、1か月にほぼ1回の割合で低周波鍼通電療法(3Hz、15分間)と皮内鍼貼付を行った。全身調整経穴を主としたが、鍼通電には主にTH-17(翳風)-LIと18(扶突)、ex-HN5(太陽)とST-7(下関)を頚部の突っ張りと咀嚼時痛の軽減のために用いた。数回の治療で、頚部の突っ張り、月経困難、不眠症、および腰痛はほとんど消失し、眼瞼下垂の症状も顕著に改善した。頸肩部の突っ張りや凝り、顔面部の咀嚼時痛の消失は低周波鍼通電療法と皮内鍼貼付による胸鎖乳突筋・斜角筋の弛緩と鎮痛作用と手術痕周囲の循環の改善もよるものと思われた。他のメカニズムとして鍼刺激により、多くのケミカルメデイエーターの放出が促進されたためと考えられた。この眼瞼下垂は頸部交感神経の傷害により起こったホルネル症候群であり、鍼治療による眼瞼の開大は鍼刺激(太陽穴)によりこの交感神経を刺激することによりおこる反射を改善させたものと考えられた。