著者
森本 裕二 MARSOLEK Ingo
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

人工呼吸に特化している医療法人井上病院におけるリスクマネージメントの現況の人間工学的分析を行った。トップダウン式の管理方法ではなく、ボトムアップ方式による安全管理が行われているかどうかを検討した。スタッフレベルによる勤務交代ごとの人工呼吸器チェックリストによる確認の徹底、インシデント・アクシデント発生時の速やかなレポートとその提出頻度を調査した。チェックリストマニュアルに従った点検は守られており、リスクマネージメント会議における、インシデント・アクシデントレポートの提出数も20-30/月と、約60床の人工呼吸器病棟からの提出頻度としては高いものと考えられた。また、インシデント・アクシデントレポートの情報も会議および院内LANにより情報開示されていた。人工呼吸関連肺炎を予防するための、気管吸引マニュアルの整備、積極的監視培養(active surveillance culture)がスタッフレベルで実施されていた。標準感染予防策(standard precaution)の徹底は医師・看護師のみならず患者介護に関与する看護助手にも浸透していた。業務プロセスの改善に関しては業務改善委員会を通じて、温度板の大幅な改訂が行われ、看護師の記録記載業務の効率化が図られると同時に、物品請求業務と連動し、請求漏れの防止効果も見られた。この温度板改訂も委員会で作成したプロトタイプを現場の病棟スタッフが実際に試用し、意見を委員会にフィードバックし、改訂を重ねるボトムアップ方式が取られていた。MRSA・多剤耐性緑膿菌の保菌患者は3年前に比べ減少していた。抗生物質の使用量も減少しており、ボトムアップ方式の感染管理が効果を挙げていると考えられた。北海道大学病院においては麻酔科による術前評価外来でのプロセス分析を施行した。外科系病棟から術前外来への患者・資料の流れは必ずしも効率的とは言えず、時間分析において不要な待ち時間が多いことが判明した。今後、北海道大学病院での改善材料となるものと思われた。