著者
中島 正愛 MCCORMICK Jason Paul
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

性能の明示を謳う性能耐震設計では、代表性能指標としてもっぱら最大層間変形角を使っているが、扉の開閉傷害に起因する避難経路の遮断、構造躯体の修復性、内装材、外装材等非構造部材の補修性等、地震終了時に建物が被る残留変形(角)も無視しえない性能評価指標となる。本課題では、鋼構造建物は、(A)大地震下でどれぐらいの残留変形を被るのか、(B)どこまでの残留変形が許容できるか、(C)残留変形をどのように制御できるかを、明らかにすることを目的とし、特に、(A)残留変形の実態調査、(B)非構造部材の損傷同定、(C)残留変形制御機構の開発、に取り組む。本研究の二年度である今年度では、上記(A)〜(C)のうち下記を実施した。(A、B)残留変形の実態調査と許容残留変形:建築後約40年を経た5階建て建物の残留変形を、床の傾斜と柱の傾斜という指標から調べ、その平均値はいずれの傾斜も1/500以下にとどまっていることを明らかにした。また当該建物への居住者へのヒアリングから、1/500程度の傾斜は生活や仕事に影響がないことも判明した。さらに心理学分野への文献調査とヒアリング結果等も踏まえ、1/200が、心理面、機能面、安全面いずれにおいても許容しうる残留変形(傾斜)であることを突き止めた。(C)残留変形の制御:残留変形最小化システムとして、柱脚部に原点復帰性を持たせる機構を考案し、それによって得られる残留変形低減効果を数値解析から明らかにした。また柱脚部原点復帰性を実現する具体的方法として、形状記憶合金をテンドンとして利用する方法と、鋼とコンクリートの間の摩擦係数が大きいことを利用した無緊結柱脚を用いる方法を提案し、後者についてはその妥当性を一連の振動台実験から検証した。