著者
上原 剛 MD.SIRAJUL Islam ISLAM Md.Sirajul
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

研究期間2年の初年度(平成16年度)は、主として沖縄島のフタバカクガニ(Perisesarma bidens, Pb)の雌雄の生殖巣の発達の程度を生きた状態で光学顕微鏡下で月ごとに1年間しらべたが、成熟未受精卵と生理的成熟精子がとれず、人工受精実験はできなかった。初年度の観察結果とこれまでの経験から生殖シーズンが5月-12月である事が予測できたので、最終年度(平成17年度)は、特に満月・新月の頃に、交尾行動を示した雌雄のペアーの個体を採集して実験室に持ち帰り野外に近い環境条件に近いコンテナで飼育して、雌雄の交尾前行動と交尾時間を観察した。このような飼育下での交尾時間はおよそ6時間で、その後雌雄を別々にして、特に雌において、受精がいつ、どこで、どのようにおこなわれるかを調べた。交尾を終えた後、およそ46時間後に腹側に出てきた成熟未受精卵を集めて80%海水に移し保存した。他方精子については、未受精卵が体内から腹部(abdominal cavity)に出た後すぐに雌を切開して体内から貯精のうを取り出し80%海水に移し保存した。しばらくして、同じく80%海水下で両者をゆっくりと混ぜ(人工媒精)、水温25度で70ml容器で飼育観察した。未受精卵の様子、媒精後の卵の形態変化(外被膜の形成)から観察例は少ないけれども、人工受精が成功したものと確信している。そのことは、その後の卵割の様子や、胞胚期・のう胚期をえて孵化前の第1ゾエア期、孵化後の各ゾエア期をおえてFirst-crabまですべて健康に育ったことによっても示唆される。別の言葉で言うと、この種では完全な体内受精ではなく、腹部のabdominal cavityで受精が起き、この状態で受精卵から孵化するまでの幼生期がおよそ16日間維持されていることがわかった。このことから、この種では完全な体外受精でもない両者の間にある受精様式と発生方式を獲得していて、今後マングローブ域の環境に適応したカニ類を全容を明らかにする上でも興味深い。受精からその後の発生の全容は光学顕微鏡レベルではほぼ明らかになり、2005年11月に開かれた第43回日本甲殻類学会(奈良女子大学)で発表した、しかし、受精の詳細な観察と人工授精についてもまだ十分とは言えない。幸いにも研究期間の間、実験補助として手伝ってくれたDr.MD.Moniruzzaman Sarker(本学の外国人特別研究員)が興味を持ってくれているので、足りない分のデータを追加し、平成18年度内には論文にする予定である。