著者
三宅 伸治 ミヤケ シンジ MIYAKE SHINJI
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学経済学論集 (ISSN:02863294)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.73-97, 2015-09

若年失業の問題は広く知られている.若年世代の失業率が他の世代の失業率よりも高いことは多くの国に共通する特徴である.若年失業は,所得分配の問題だけでなく,人的資本蓄積の阻害を通じ経済成長とも関連があると考えられ,将来の雇用問題やGDPへ与える影響が懸念される.このような状況のもとでは,若年失業と経済成長の関係を分析することは自然な流れのように思えるが,そのためには,労働者の世代を明示的に区別した経済成長モデルが必要となる.しかしながら,そのような経済モデルは,筆者の知る限り,それほど多くない.近年,失業を含む世代重複モデルが様々な分野に応用されるようになった.例えばBean and Pissarides(1993) は失業と経済成長の関係,Ono (2010) は年金と経済成長の問題,Yakita(2014) は財政赤字の持続可能性の問題,Azariadis andPissarides(2007) およびHiraguchi(2011) は国際資本移動の問題を世代重複モデルによって分析している.しかしながら,このようなモデルは,労働する世代を区別しない.すなわち,若年期に労働を供給するのみで,翌期は引退するという設定になっている.複数の世代が労働を供給するモデルとしては,Modesto(2008) やGorry(2013) があるが,資本蓄積も同時に分析する目的には適していない.三宅(2010) では,若年の労働者と壮年(2 期目) の労働者を明示的に分けて失業と資本蓄積の関係を描写しようとした.しかしながら,三宅(2010) にはモデル内で資本蓄積が生じにくいという問題があった.これは分析を簡単化するため,引退世代を捨象,すなわち,存在する2世代ともに労働を供給すると仮定したことが原因であった.この仮定は二つの経路から経済全体の資本蓄積を阻害する.一つは,壮期にも所得を受け取るため若年期に貯蓄が少なくてもすむことである.もう一つは,壮年期の翌期は存在しないため,壮年期にも貯蓄をする誘引がないことである.このような理由から,経済全体として貯蓄が増えず資本蓄積が進まなかった.そこで,貯蓄を発生させるために,壮年期の所得が著しく少なくなる,あるいは,壮年世代の失業率が高くなるようなパラメータを設定した.三宅(2010) は異なる世代の失業率が変化していく様子を分析可能であるという利点はあるものの,現実的な政策的含意を得るためには,この問題点を改善する必要がある.本稿のモデルの特徴は,(1) 引退し労働を供給しない世代(老年世代),および,(2) 外部性として学習効果(Learning by Doing) を導入したことである.(1) は,前述の通り資本蓄積を促進させる効果を持つ.引退前の世代は貯蓄をすることになり,経済全体の貯蓄水準を引き上げるからである.しかしながら,(1) の設定により動学的性質は均衡経路は3 階差分方程式として描写されることになる.そこで(2)仮定により,均衡経路を2 階差分方程式に簡単化することが可能になった.(2)の設定は内生的成長を生む源泉となることが多いが,本稿の設定のもとでは内生的成長は発生せず,定常状態へと収束していく.また,一定の条件のもとで,定常均衡が少なくとも一つ存在する条件を示した.さらに,定常均衡が安定的であることを数値例によって示し,その過程で,両世代の失業率が推移していく状況を示した.本稿の構成は次の通りである.第2節でモデルの設定を述べる.第3節で競争均衡を描写し,数値例により定常均衡の存在およびその安定性について分析する.第4節はまとめである.