著者
Takuya MAKI Miho INOUE-MURAYAMA Kyung-Won HONG Eiji INOUE Masami MAEJIMA Norio KANSAKU Yuichi TANABE Shin'ichi ITO
出版者
Japanese Society of Animal Breeding and Genetics
雑誌
The Journal of Animal Genetics (ISSN:13459961)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.95-104, 2008-12-01 (Released:2010-03-18)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

日本犬標準6品種 (柴犬、紀州犬、四国犬、北海道犬、甲斐犬、秋田犬) の中で、柴犬は飼育数も多く最も馴染み深い。柴犬には、信州柴犬 (日保系・柴保系) 、山陰柴犬、美濃柴犬の3内種が存在し、形態や性格が異なる。先行する日本犬研究の多くは、柴犬の3内種を区分けしないで扱ってきたため、各内種内の遺伝的多様性や、内種間の遺伝的分化の程度は明らかでない。本研究では、柴犬3内種 (信州柴犬/日保系、信州柴犬/柴保系、山陰柴犬、美濃柴犬の4集団) に、比較として加えた7品種 (北海道犬、秋田犬、四国犬、薩摩犬、琉球犬、日本スピッツ、ラブラドール・レトリーバーの7集団) の計11集団、合計430頭に対して、マイクロサテライト17座位を用いて、解析した。用いた17座位による柴犬3内種 (4集団) の期待ヘテロ接合度の平均は、信州柴犬/日保系が0.641、信州柴犬/柴保系が0.480、山陰柴犬が0.508、美濃柴犬が0.588であり、他の7犬種の平均0.603と、大きく異ならない値を示した。また、柴犬3内種 (4集団) 問の遺伝的分化の程度は高度に有意であった (P<0.Ol) 。11集団間の枝分れ図では、柴犬の3内種 (4集団) は相互に近い位置関係を示したが、山陰柴犬は、他の2内種 (3集団) からはやや離れた位置関係にあった。この結果から、山陰柴犬は、信州柴犬 (日保系・柴保系) や美濃柴犬と異なる可能性が考えられた。また、柴犬3内種 (4集団) に属する個体問の枝分れ図では、個々の内種内は遺伝的に密にまとまっており、 (社) 日本犬保存会【日保】と天然記念物柴犬保存会【柴保】両系の問にも明確な差が認められた。このことから、各内種を保存・育成する会で、独自に血統が保持されてきたことが示唆された。今回の結果から、柴犬3内種 (4集団) 問は統計的に高度に有意な遺伝的分化を示しており、今後の研究では、柴犬は3内種 (4集団) 別に区分けして取り扱う必要がある、と考えられる。