著者
松原 悠 Matsubara Yu マツバラ ユウ
出版者
「災害と共生」研究会
雑誌
災害と共生 (ISSN:24332739)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.13-27, 2021-09

一般論文日本における新型コロナウイルス感染症の流行の拡大に伴い、「自粛警察」という概念が広く使用されるようになった。本稿では、当該概念の使用が拡大した過程を関連するデータに基づいて分析するとともに、似た意味を持つ複数のインターネットスラングのなかから社会状況の変化に応じて「自粛警察」という適切な概念が選び取られて流通したことを示す。そして、この言説空間の変容が、自粛するかどうかの最終判断を個々人に委ねるオフィシャルな自粛要請のもと「自粛警察」的な行為によって自粛を事実上強制するアンオフィシャルな社会規範としての世間の「空気」が生まれつつあったなかで、「自粛の『空気』を作り出すことにつながる行為」を対象化し「空気」を間接的にコントロールする機能を果たした(問題の外在化が実現された)ことを論じる。最後に、本研究から得られた示唆として、災害や危機といった先行きが不透明な状況下においては「空気」の影響力が相対的に強まるなか、そのような事態が発生する事前の段階で、言説空間を豊かにする手がかりを用意しておくことの重要性を述べる。