- 著者
-
矢守 克也
松原 悠
- 出版者
- 日本グループ・ダイナミックス学会
- 雑誌
- 実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
- 巻号頁・発行日
- pp.si5-6, (Released:2022-10-05)
- 参考文献数
- 34
新型コロナウイルス感染症に対する日本社会の反応の中で,特に目を引いたことの一つは,「外出自粛」,「旅行自粛」,「営業自粛」といったフレーズに登場する「自粛」という現象やそれをめぐる論争である。本論文では,まず,「自粛ムード」,「自粛要請」,「自粛警察」などのワードに暗示されているように,自粛が,一方で,当事者の主体性に基づく行為のようでもあり,他方で,他者からの強制・誘導に拠る行為のようにも見えること,つまり,主体性と従属性とが両義的に混在した行為として生み出されていることを確認する。その上で,以下のことを明らかにする。第1に,主体性と従属性との混在は,「(コロナ)自粛」という例外的な事象にのみ観察される特殊なものではなく,主体性というもの一般が,もともと,主体性と従属性をめぐるグループ・ダイナミックスを通して形成され,自粛はそのあらわれ方の一つである。第2に,とは言え,現代の日本社会には,自粛という特殊な様式を採用したくなるだけの特別な背景―〈マイルドな個人主義〉―が存在する。最後に,この様式が日本社会で支配的であることは,コロナ自粛とは別に,「中動態」および「ナッジ」といった概念に対する大きな社会的注目によっても傍証される。