著者
村田 直子 Murata Naoko ムラタ ナオコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.13, pp.55-65, 2008

時間は生まれてから死ぬまでの我々の生に密接に関わっているものである。それゆえ時間的に連続した自己を保てることが、個人の同一性や主体性ζ大きく関係し、発達や健康の一つの指標となる。本論の前半部では、時間的展望研究や精神医学的な理論を援用して、時閣的連続性から見た自己のあり方について考究を深めた。また現代日本における分裂や解離の機制に言及し、時間的連続性を達成することの困難さについても論じた。一方心理療法においては、クラィエントとセラピストの関係がもっとも重視され、セラピストはクラィエントと時間を共に生きることが面接場面では要求される。筆者は、Schwingの「母なるもの」や、Jacobyの「楽園願望」、Winnicottの「存在の連続性」等の知見を用い、クライエントとセラピストが協同して時間的連続性を紡いでいくことの重要性を強調した。常に未来と直面し続けるという自己更新の作業は孤独であるが、他者の存在によって新たな可能性が生まれることと思われる。