著者
中林 美奈子 寺西 敬子 新鞍 真理子 泉野 潔 成瀬 優知 吉田 佳世 村田 直子 高木 絹枝 若松 裕子 下田 よしゑ 横井 和子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.655-665, 2006-01

明らかな医学的異常がない児をもつ母親を出産後4〜18ヵ月まで追跡し, 精神健康度の変化とそれにかかわる要因を明らかにした。精神健康度はGHQ28日本語版の要素スケールである「不安と不眠」スケールを用いて評価した。その結果, 1)産後4〜18ヵ月の母親の精神健康度の変化として, 4ヵ月時点での良好さを18ヵ月まで維持していた者(良好維持群)28.1%, 良好さを維持できなかった者(悪化群)19.8%, 4ヵ月調査での不良さを改善していた者(改善群)9.4%, 不良さを継続していた者(不良継続群)42.7%いう実態が示された。2)産後4ヵ月の母親における精神健康度悪化予測要因として, (1)夫から情緒的ならびに情報サポートを受けていないと感じていること, (2)身体的疲労感を自覚していること, (3)イライラしておこりっぽいと自覚していることが抽出された。3)産後4ヵ月の母親における精神健康度不良継続要因として, (1)夜間に1回以上覚醒すること, (2)気分や健康状態が悪い, 疲労回復剤を飲みたい, 疲れを感じる, 身体が火照る・寒気がするなどの身体的症状を自覚していること, (3)いつもストレスを感じる, いろんなことを重荷に感じる, 不安を感じ緊張するなどの不安と不眠症状を自覚していることが抽出された。4)育児期間にある母親の心の健康を良好に保つためには, 産後4ヵ月時点で母親の精神健康度とその関連する要因を評価し, 予測的に働きかけることが重要である。
著者
村田 直子 Murata Naoko ムラタ ナオコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.13, pp.55-65, 2008

時間は生まれてから死ぬまでの我々の生に密接に関わっているものである。それゆえ時間的に連続した自己を保てることが、個人の同一性や主体性ζ大きく関係し、発達や健康の一つの指標となる。本論の前半部では、時間的展望研究や精神医学的な理論を援用して、時閣的連続性から見た自己のあり方について考究を深めた。また現代日本における分裂や解離の機制に言及し、時間的連続性を達成することの困難さについても論じた。一方心理療法においては、クラィエントとセラピストの関係がもっとも重視され、セラピストはクラィエントと時間を共に生きることが面接場面では要求される。筆者は、Schwingの「母なるもの」や、Jacobyの「楽園願望」、Winnicottの「存在の連続性」等の知見を用い、クライエントとセラピストが協同して時間的連続性を紡いでいくことの重要性を強調した。常に未来と直面し続けるという自己更新の作業は孤独であるが、他者の存在によって新たな可能性が生まれることと思われる。