著者
小坂田 耕太郎 NELI Mintcheva NELI N.Mintcheva-Peneva
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

前年度までの成果に基づき、かさだかい有機ケイ素配位子であるシルセスキオキサンを配位子とする有機白金およびパラジウム錯体の合成を行った。キレート配位するテトラメチルエチレンジアミンや2,2-ビピリジンを支持配位子とするフェニル(ヨード)およびジヨード錯体をシルセスキオキサン配位子の置換反応で新規錯体に導いた。シルセスキオキサンパラジウム錯体は、これまで合成例がなく、本研究がはじめての報告となる。錯体の構造は単結晶構造解析で明らかにしたが、溶液中の構造をNMRスペクトルで検討すると動的な挙動を示すことがわかった。H,C,FなどのNMRスペクトルを種々の温度で測定し、精密に解析することによって、この錯体はこれまでに申請者がみいだした、O-H-O水素結合のスイッチングに加えて、シルセスキオキサンが回転することによってコンフォメーション異性体の変換がおきていること、シルセスキオキサン配位子がきわめてかさだかいために、そのコンフォメーション異性体が低温では区別して観測されることが明らかになった。類似の錯体を多数合成し、比較することによって、中心金属の電子状態とコンフォメーション変化速度とに相関があることがわかった。このような結果と以前の結果とをあわせて、後期遷移金属のシルセスキオキサン配位錯体の合成法、構造変化について広範な立場からの区分をおこなった。その結果、種々の動的挙動のパラメーターがモデル化合物であるシリルオキソ錯体とは大きく異なることを明らかにすることができた。本研究によってシルセスキオキサン錯体についての重要な知見が得られ、これを米国化学会発行のOrganometallics誌に2報の論文として報告した。