著者
野口 実 NOGUCHI Minoru
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
no.1, pp.93-104, 2001-03-30

日本人一般はアジア・太平洋戦争について、その悲惨さは認識しているが、なぜそのようなことになってしまったのかということを真剣に考える姿勢が見えない。このノートは国民が軍国体制にからめとられていく背景として、誤った「武士」認識が近代国家の教育によって国民に注入されたことを論じ、そのような認識が今日に至っても払拭されていないことを問題にしたものである。まず、武士の成立に遡ってその実像を明らかにするとともに、東アジア的な視点から、王朝権力とは別のところに成立した武人政権が長く継続した日本の歴史の在り方を不幸で例外的なものと見る。ついで日本人一般に見られる武土賛美がもたらす諸問題を指摘する。そして、近代の日本国家が国民全体を武士的な精神で統合するために、どのような教育手段を用いたのかを具体的に提示し、戦前への回帰の方向に向かいつつある今日、その克服のために科学的な成果に基づく歴史教育の重要性を説く。