著者
寺田 護 竹添 裕高 石井 明 記野 秀人 大野 民生 MOHAMED Abdu CHAN Boon T. NORHAYATI Mo NOOV HayatiM
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

3年間の研究期間において、不法移民についてはネゲリ・センビラン州レンゲンにある抑留キャンプ、合法移民についてはセランガ州にあるカレー島のヤシ油プランテーションで、それぞれ3回、計6回の調査を実施した。被験者数は総計で741名であり、その内訳は不法移民308名、合法移民221名、マレーシア人労働者212名であった。不法移民についてはインドネシアが157名と過半数を占め、以下3名のアフリカ人の他はすべてアジア諸国からの移民であった。合法移民はほとんどがインドネシア人であった。また、マレーシア人はマレー系、先住民、インド系に区別できた。全体として不法移民が他の群に比べ寄生虫感染率が高かったが、中でも病原性原虫および外部寄生虫の感染率が高く、主に衛生状態の悪さを反映する結果と思われた。合法移民については不顕性マラリアが多く見られたことが特徴であったが、追跡調査で調べられた4名の被験者はいずれも陰性であった。これは母国への一時帰国に伴って感染した典型的な輸入寄生虫症と考えられた。対照群ではそれぞれの民族性に由来する生活習慣の違いが寄生虫感染にも反映していると考えられた。不法移民では出身国や職業の違いが感染状況にも反映され、移民の寄生虫相を考える上では重要な指標であることが示唆された。全体を通してマレーシアには見られない輸入寄生虫症は見つからなかったが、移民の持ち込む寄生虫はマレーシアの寄生虫感染を一定のレベルに維持するような働きを持つことが考えられた。また、合法移民は自由に国内を行き来できることから、感染を広める上で大きな役割を果たす可能性が示唆された。入国時あるいは定期的な健康診断がこうした輸入寄生虫症の対策として重要であると考えられた。