著者
野沢 庸則 R.E.BLANKENS ブランケンシップ D. Oesterhel OESTERHELT D. BLANKENSHIP R.E.
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

本共同研究の目的は光合成細菌の耐熱化の機構の解明とこの知見を利用した新しい耐熱化光合成細菌の作製であった。本共同研究の前半の目的である光合成細菌の耐熱化の機構の解明においては今回は特に光合成の初期過程の耐熱化の機構の解明に焦点を絞った。本研究の後半の目的は解明された耐熱化の機構にもとずいて遺伝子工学的に新しい耐熱性光合成細菌を作製することにあった。このために反応中心のタンパク質及び色素構造を明らかにするとともにその遺伝子の構造を明らかにし、点変異を行なうべき場所および種類を明らかにすることを目的にした。光合成細菌の耐熱化の機構の解明において特に光合成の初期過程に焦点を絞った。その耐熱化の要因の解明には一昨昨年と一昨年に亘るアリゾナ州立大学のBlankenship教授と続けている耐熱性光合成細菌Chloroflexus aurantiacus,Chromatium tepidumの反応中心タンパク質の単離(研究発表論文参照)とその耐熱性の検討からほぼその主原因の特定ができた。すなわち、現在知られている菌体で最高の耐熱温度を示すChloroflexus aurantiacus,Chromatium tepidumの反応中心タンパク質の単離とその耐熱性の検討から反応中心の耐熱化機構の主原因が膜内ヘリックスを結び付けているタンパク質部分にあることが特定ができた。このため遺伝子操作による耐熱能の向上をはかるためにChromatium tepidumの反応中心の遺伝子のつり上げとその塩基配列の決定のための実験に着手した。全染色体遺伝子の単離と精製には昨年度前半のミュンヘンのOesterhelt教授のところでの実験により成功した。昨年度後半のミュンヘンのOesterhelt教授のところでの実験ではこれを制限酵素で切断し、この中から常温光合成細菌であるRhodobacter sphaeroidesの反応中心からのランダムブライミング法により合成したプロ-ブとの混成からChromatium tepidumの反応中心の遺伝子が含まれていると思われる約6Kベ-スの断片についてブラスミドに挿入してクロ-ニングしたが、期待されたクロ-ンの予備的な塩基配列の検討から反応中心のものとは考えられなかった。そこで今年度は全染色体遺伝子を制限酵素により部分分解し、これをin vitroパッケ-ジ反応を利用してコスミドにクロ-ニングし、このラムダハァ-ジを、大腸菌にトランスフェクションして、これからやく800個の遺伝子断片をもつコロニ-(いわゆるジ-ンバンク)を得た。このコロニ-の中から常温光合成細菌であるRhodobacter sphaeroidesの反応中心からのランダムブライミング法により合成したプロ-ブとの混成実験からChromatium tepidumの反応中心の遺伝子が含まれていると思われるコロニ-を10個ほど選びだし、このDNAを精製しSouthern BlotからChromatium tepidumの反応中心の遺伝子を含むと思われるコロニ-の特定をおこなった。これと並行してChrotatium tepidum反応中心の精製と結晶化を行なった。これはそのX線構造解析による3次元立体構造と、遺伝子からの全アミノ酸配列の知見を元に耐熱化能の向上のために遺伝子に修飾を与える場所を決定する際大変参考になると予想されるからである。現在までに高度に精製した反応中心からタンパク質的にそのアミノ酸末端の配列の決定に成功しこれをもとにした反応中心選別のためのプロ-ブの作製ができた。タンパク質の結晶化については現在かなり条件の絞り込みができたところである。現在、反応中心遺伝子の塩基配列の決定のための実験とともに結晶化の実験を継続中である。最終目的である光合成細菌の耐熱化を行なうためには遺伝子の修飾とこれを組み込んだ常温光合成細菌の耐熱化を検討する必要が有る。上述のように遺伝子は単離され、まもなく塩基配列が決定されるので、修飾すべき場所を構造化学的知見(結晶化と、そのX線構造解析による3次元立体構造)から求め、これをもとに遺伝子の修飾、発現、培養を行なうことが残された課題である。これらの課題に対して現在Oesterhelt教授のグル-プと共同研究を続行している。