- 著者
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OLAH Csaba
- 出版者
- 国際基督教大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-01
2020年度は主に二つのテーマについて研究を遂行してきた。一つには、これまでに収集してきた日記や文書からのデータを分析し、中世日本における唐物消費の実態状況について検討した。唐物の財産としての要素に注目し、国内での入手経路や売却、質入、贈与に関する事例を分析してきた。困窮を理由に唐物を売却・質入したり、あるいは経済的余裕があって唐物を収集したりするといった事例から、唐物流通に関わる禅僧の存在が浮かび、彼らの目利きとしての役割が見えた。禅僧が遣明使節の目利きとして起用された背景には、禅僧の唐物に対する知識、あるいは禅僧の国内における唐物流通への関与が大きく影響したことが再確認できた。美術史分野における唐物研究から知見を得て、中世における美術品としての唐物の価値や、価格の判断基準について知識を深めた。唐物輸入に関しては、宝徳年間および文明年間の遣明使節に関する記録に基づき、遣明船の出発前の唐物注文およびそのための資金提供、そして帰国後の積載貨物の荷降ろし作業の事例について再検討を行った。もう一つには、遣明使節による唐物入手の実態について検討した。『初渡集』『再渡集』の事例から、中国滞在中の唐物の入手経路や購入価格、購入のための資金調達などについて明らかにした。さらに『壬申入明記』を二つの視点から分析した。一つ目は、日本商品に対して明朝が支給する買取価格(給価)をめぐる寧波・南京・杭州での折衝の流れを再現し、給価およびその後の中国での貿易活動との関連性について考察した。二つ目は、華人との私貿易の時に起きた納品滞納の事件について分析し、実は二つの事件が記録されており、個別の検討が必要であるという新事実が明らかになった。