著者
末松 芳法 OROZCOSUAREZ DAVID OROZCO SUAREZ David OROZCO SUAREZ David
出版者
国立天文台
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

太陽表面で見られる活動現象の大部分は太陽に存在する磁場に関係して起こっている。黒点は強い磁場が存在する場所として良く知られており(活動領域)、フレアなどの爆発現象が起こる場所に対応している。一方、黒点以外の場所(静穏領域)にも強い磁場は存在し、機械的エネルギーがこの磁場を介して外部のコロナに輸送されコロナが一般に100万度以上の高温になる原因と考えられている。但し、どのような機構でエネルギーが外部に運ばれているかは未解明の大問題である。また、対流と磁場の相互作用としての未解明のダイナモ機構に関連する極めて重要な電磁流体現象を提供している。本研究は太陽磁場、特に地上では観測の難しい静穏領域の磁場の性質を詳細に調べることでこの謎解明に迫るものである。太陽静穏領域の磁場はネットワーク構造をしており、超粒状斑と呼ばれる直径約3万kmの対流セルの境界に集中して存在することが知られている。個々の磁気要素は激しく変化しており、数時間の時間スケールで入れ替わっていることが予想される。超粒状斑内の浮上磁場、その対流運動による超粒状斑境界への輸送、境界磁場との融合消滅過程を経て、更新が行われていると考えられる。これらの静穏領域の磁場の性質の研究が進んできたが、まだ統一的な見解は得られていない。このため、太陽観測衛星「ひので」の高精度磁場観測を実施し、静穏領域で太陽中心角の異なる4つのフォトンノイズの小さいデータを用いて磁場の傾きを調べた。視線方向磁場に対応する円偏光成分と、視線に直角方向の成分に対応する直線偏光成分には、太陽中心角の大きな依存性があり、水平成分が卓越していることを示した。この結果は、磁場は等方的ではなく、小さなループ構造で多く存在していることを示唆している。太陽中心角に依らず、磁場強度は平均で180ガウスとなり、以前のハンレ効果を用いた結果と同様の強い磁場が得られた。更に、積算により非常にフォトンノイズを小さくした「ひので」の偏光データを解析した結果、直線偏光のみからなる磁場が70%近くを占めることが示され、磁場の傾きが水平方向に卓越していることを強く支持する結果を得た。