著者
木村 拓也 Lauro Augusto Cescon Matteo Zanfi Chiara Pinna Antonio Daniele 福澤 正洋
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.1883-1891, 2008-11-01
参考文献数
21

イタリアのボローニア大学S'Orsola-Malpighi附属病院で過去7年間に脳死ドナーから成人の小腸単独移植を28例(29移植)に行ったので報告する.方法:原疾患は短腸症候群と小腸機能不全が29移植中27移植(93%)で,移植の適応としては中心静脈アクセスの確保不能,中心静脈栄養に関連した合併症(繰り返す感染症,肝機能障害)が20例(69%)を占めた.免疫抑制剤はdaclizumab,alemtuzumab,antithymocyte globulinのいずれかをinductionに用い,tacrolimusを維持に用いた.Daclizumab投与例ではプレドニゾロンも併用した.結果:患者/グラフトの5年生存率は74%/71%であった.拒絶反応は13例に認め,全例にステロイドパルス療法を,2例にはOKT3を追加投与したが,1例は回復せず,graftの摘出を要した.6例死亡したが(中央値:400日)敗血症3例,アスペルギルス肺炎2例,CMV腸炎による多発穿孔1例とすべて感染症関連であった.生存例22例中19例は中心静脈栄養を必要とせず,経口摂取で生活し,生活の質が保たれていた.考察:成人の小腸単独移植は,induction therapyの導入や適応の選択などで他の臓器移植とほぼ同じ生存率を得ることが可能となってきた.小腸移植は小腸機能不全や短腸症候群患者における有用な選択枝となりえるが,拒絶反応,感染症で失う症例も多く,さらなる工夫が必要である.