著者
RATCLIFFE Robert 益子 幸江
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,アラビア語モロッコ方言において見られるGeminate(重子音)について,言語学的・音声学的調査を行うことを目的としている.音声学的な重子音は日本語にも存在し,促音と撥音の一部がそれであるが,これと同様のものがアラビア語モロッコ方言にも存在する.しかも,日本語では語中の位置でしか現れないが,モロッコ方言では語頭,語末の位置でも現れる.18年度にモロッコ国内での調査を行い,男性2人,女性2人の計4人から言語資料,音声資料および映像資料を収集した.その音声資料を,音韻論的に分析し,さらに,音声表記を行った.また,サウンドスペクトログラフを用いてGeminate(重子音)の持続時間を計測した.結果は以下のとおりである.1) ほとんどすべての子音がGeminate(重子音)を持つ.2) 音韻論的には,Geminate(重子音)は語頭,語中,語末のいずれの位置にも現れる.3) 語頭では,摩擦音や鼻音などのような続けられる子音の場合はGeminate(重子音)の方が長い.4) 語頭では,続けられない子音である破裂音や破擦音の場合はGeminate(重子音)であっても持続時間は変わらない.5) したがって,音韻論的なGeminate(重子音)はかならずしも音声学的なGeminate(重子音)ではない.現在,語中と語末の位置のGeminate(重子音)についての分析を進めている.その結果では,語中の位置でのGeminate(重子音)は続けられない子音である破裂音や破擦音でも,その閉鎖区間を長くすることができるので対立を保っているように見え,語頭の位置の場合のように中和してはいないと考えられる.この分析を進めて行くと同時に,語頭の位置での現象については更なる検討が必要であり,そのためには聴取実験のような新たな研究手法を使う必要が出てきそうである.