著者
安田 利枝 ヤスダ リエ Rie Yasuda
雑誌
嘉悦大学研究論集
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-24, 2005-04-30

1999年の地方自治法(LSGA)は、開発援助の与え手(ドナー)側の援助思潮ならびに開発戦略に基づいて、分権化の原則と政策、参加型開発の定式化、地方政府機関の確立に向けて相当程度包括的な法的枠組みをもたらした。しかしながら、1982年地方分権法とこれに続く分権化スキームと同様、問題は法の実効性、運用、実施にある。実施を阻害する要因として、多くの研究者が、高度に権力を集中させた封建的、権威主義的、世襲制的政治、中央政府の実質的コミットメントの欠如、財政分権化への中央省庁の抵抗、地方政府機関の弱体な管理運営能力等を指摘してきた。だがむしろ根源的な問題は、ネパールの恩顧主義の政治文化に支えられて、課題設定権力がドナーの側にあり、ネパール政治社会に適合的な制度設計の代替案が十分に検討されてこなかったことにある。