著者
Roland Houart
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1-4, pp.27-38, 2017-11-27 (Released:2018-01-11)
参考文献数
27

エントツヨウラク属Siphonochelus Jousseaume, 1880の日本産の2種,エントツヨウラクS. japonicus A. Adams, 1863とニッポンエントツヨウラクS. nipponensis Keen & Campbell, 1964の同定には著しい混乱があった。これはS. nipponensisのパラタイプの誤同定に寄るところが大きい。本タクソンのホロタイプは寺町コレクションに(現在は鳥羽水族館所蔵),パラタイプはスタンフォード大学の地学コレクションに保管されているが,後者の方がのちの多くの論文に図示されている。このたび,鳥羽水族館所蔵のS. nipponensisのホロタイプの写真を基に再検討を行った結果,パラタイプは未記載と考えられる別種の未成熟個体であることがわかった。一方のS. japonicusの方もホロタイプが失われていることで,混乱している状況があったため,ネオタイプを指定することで同定を確定させた。さらに,モザンビークからエントツヨウラクに近似した1新種を記載し,日本産の2種を含む既知種と比較を行った。Siphonochelus japonicus A. Adams, 1863エントツヨウラク本種は南アフリカのS. arcuatus(Hinds, 1843)の異名とされることが多かったが,より小型で膨らみが強く,縦張肋は尖らず丸みが強いことで区別される。波部(1961:続原色日本貝類図鑑)は初めて本種を正しく図示している。土屋(2017:日本近海産貝類図鑑第二版)がこの名前で図示しているのは,未記載の別種と思われる。Siphonochelus nipponensis Keen & Campbell, 1964ニッポンエントツヨウラク従来しばしばエントツヨウラクと混同されており,例えば土屋(2017:日本近海産貝類図鑑第二版)が本種として図示しているのは,エントツヨウラクである。エントツヨウラクと比較して,貝殻はより細長く伸び,後水管がやや平たく伸長する。Siphonochelus mozambicus n. sp.(新種)殻は本属としては小型,殻長/殻径比2.0,やや幅広い槍の穂先形。縫合下の段差は非常に狭く,弱く凹状となる。原殻はやや大きく1.5~1.75層,平滑で幅広い。成殻は最大4層。各螺層に4本の断面が丸い縦張肋がある。後水管は基部がやや平たく,開口部は丸く細まり,殻軸に対して70°の角度となる。殻口は小さく卵形で連続する。前水管は短く,殻長の19~21%,基部は太く,先端に向かって急激に細まり,直線的あるいは弱く背部へ曲がる。タイプ標本:ホロタイプMNHN IM-2000-33180,殻長6.1 mm。タイプ産地:モザンビーク海峡,25°11´S, 35°02´E,水深101~102 m。著者は当初本種をエントツヨウラクに同定していたが,のちに追加標本を調査することにより,種レベルで区別されることが分かった。エントツヨウラクは本種よりも明らかに大型で膨らみが強く,縫合下の括れが浅い。