- 著者
-
髙野 剛史
田中 颯
狩野 泰則
- 出版者
- The Malacological Society of Japan
- 雑誌
- Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
- 巻号頁・発行日
- vol.77, no.1-4, pp.45-50, 2019-05-15 (Released:2019-06-06)
- 参考文献数
- 29
ハナゴウナ科Eulimidaeの腹足類は,棘皮動物を宿主とする寄生者である。同科のMucronalia属は形態および生態情報に乏しいグループで,タイプ種のフタオビツマミガイM. bicinctaは生貝での採集報告がなされていない。Warén(1980a)による殻形態に基づく属の概念では,つまみ状の原殻,内唇滑層,ならびに中央部の突出した外唇を有することが重要視されている。また2既知種がクモヒトデ寄生性であることが知られており,これが本属貝類に共通の生態とみなされている。本報では,神奈川県真鶴町の潮下帯より採取されたアカクモヒトデOphiomastix mixtaの腕に外部寄生するMucronalia属の1新種を記載した。Mucronalia alba n. sp.オビナシツマミガイ(新種・新称)原殻がつまみ状に突出すること,殻口内唇に滑層を有すること,また外唇は中央部が突出し横からみると大きく曲がることから,Mucronalia属の一種であると判断された。殻は本属としては細く塔型,最大5.5 mm,白色半透明である。後成殻は6.6巻,螺層は時に非対称に膨れ,螺塔は成長に伴い不規則に太くなる。外唇縁痕は不定期に現れ,僅かに褐色を呈する。殻口は細長い卵型。軸唇はまっすぐで,体層の軸から20°傾く。原殻は淡い褐色。本種の殻形は,同じく日本に産するヤセフタオビツマミガイM. exilisと,オーストラリアのクイーンズランドから記載されたM. trilineataに似る。一方これら2種は殻に褐色の色帯を有し,また軸唇の傾きが弱い。オマーンをタイプ産地とするM. lepidaとM. oxytenes,メキシコ西岸のM. involutaはいずれも本種と同様白色の殻をもつが,前2種は殻が太く螺層の膨らみが弱い点で,またM. involutaは本種と比してはるかに小型である点で区別される。タイプ種であるフタオビツマミガイM. bicincta,オマーンに産するM. bizonula,スリランカのM. exquisitaは,色帯のある円筒形の殻をもつ点で本種と明瞭に異なる。上述の種のほか,コガタツマミガイ“M.” subulaやヒモイカリナマコツマミガイ“M. lactea”がMucronalia属として扱われることがある。しかしながら,前者は殻口外唇が湾曲せず,カシパンヤドリニナ属Hypermastusに含めるのが妥当である。後者は,殻形態,寄生生態および予察的な分子系統解析(髙野,未発表)により,セトモノガイ属Melanellaの一種であると考えられた。しかしながら,Eulima lactea A. Adams in Sowerby II, 1854が同じMelanellaに所属すると考えられるため,ヒモイカリナマコツマミガイに対するlactea A. Adams, 1864は主観新参ホモニムとなる。そこで,ヒモイカリナマコツマミガイに対する代替名としてMelanella tanabensisを提唱した。東アフリカのザンジバル諸島産で,同じくヒモイカリナマコに内部寄生する“Mucronalia” variabilisもセトモノガイ属に含めるのが妥当と考えられ,本論文で属位を変更した(Melanella variabilis n. comb.)。