著者
SAFFEN DAVID
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究でわれわれは、PC12細胞の亜株であり神経成長因子(NGF)によりすばやく分化するPC12D細胞を用いて、神経成長因子(NGF)やムスカリン受容体アゴニストであるカルバコールとオキソトレモリンの刺激によって、zif268のmRNAが迅速に発現することを明らかにした。PKCをダウンレギュレートするホルボールジアセテート(PDA)を刺激の一日前に作用させると、ムスカリン受容体のアゴニストによるzif268の発現が完全に抑えられた。一方でNGFによる発現は、同じ処理により部分的にしか抑えられなかった。またNGFによる発現の誘導は、蛋白キナーゼの阻害剤であるK252a(100nM)やスタウロスポリン(10nM)によって阻害された。この結果により、NGFによる発現誘導にはチロシンキナーゼであるp140-trkA NGF受容体の活性化が必須であることが示唆された。カルバコールやオキソトレモリンによる発現の誘導には、細胞外カルシウムの流入が必要であり、これはLタイプのカルシウムチャネルの阻害剤であるニフェジピンにより阻害されないチャネルを介していることがわかった。以上の結果から、NGFとムスカリンアゴニストのzif268発現誘導は、少なくとも部分的には独立した経路を介していることが示唆された。われわれはまた、zif268のDNA結合部位を、マルトース結合蛋白との融合ペプチドとして大腸菌で発現させた。この蛋白はアフィニティークロマトグラフィーで回収でき、zif268の認識するDNAの配列に特異的かつ高親和性に結合した。今後この融合蛋白を用いて、転写因子zif268によって制御されている遺伝子を同定する予定である。