著者
新保 淳乃 シンボ キヨノ SHINBO Kiyono
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.279, pp.46-56, 2014-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 第279集 『歴史=表象の現在』上村 清雄 編"The Presence of History as Representation", Chiba University Graduate School of Humanities and Social Sciences Research Project Reports No.279トルクアート・タッソ(Torquato Tasso, 一五四四-一五九五年)が一五七五年にフェッラーラで発表した『解放されたエルサレム』は、一〇九九年の第一回十字軍を題材に、キリスト教徒の騎士たちがエルサレム奪還をめぐってイスラム勢力を争う壮大な叙事詩である。この叙事詩が発表された十六世紀末のイタリア半島およびヨーロッパ世界は、外からはイスラム教を主とするオスマン帝国の慎重に脅かされ、内からはカトリック教会の失地回復運動とも呼ぶべき対抗宗教改革に突き動かされていた。そうした時代状況を背景に、『解放されたエルサレム』は文学的議論を巻き起こし、その多彩なエピソードは音楽、演劇、絵画、版画、宮廷バレーとさまざまなかたちに翻案された。本稿は、近世イタリアを代表するこの叙事詩の「絵画化」を巡る研究の序論として、研究史を概観し考察の基本的視点を示すものである。研究史の重要なメルクマールとなるのは、一九五四年にフェッラーラで開かれた国際会議である。そこでの報告と議論によって、タッソの詩とそれを生み出した十六世紀後半のフェッラーラを関連付ける基本的枠組みが整えられた。一九五四年の国際会議を契機に、絵画史にとどまらず文学、音楽、演劇を含めた近世の文化全般に視野を広げて、タッソ受容を多角的に論じる場が次々と設けられた。特に一九八五年にフェッラーラで開催された展覧会企画「文学、音楽、演劇、造形芸術のあいだのタッソ」は、その後の領域横断的なアプローチを決定づけたと言える。一九九五年十二月に、タッソ没後四〇〇周年を記念して再びフェッラーラで大規模な国際会議「トルクアート・タッソとエステ家文化…本稿は平成二五年度科学研究費補助金(若手研究B)「近世イタリア絵画における傷病者・看護者増の社会史的表象研究-女戦士像を中心に」(課題番号・25770042、研究代表者・新保淳乃)による研究成果の一部である。