著者
末広 潔 末廣 潔 (1994) COFFIN Milla SHIPLEY Thom MANN Paul 篠原 雅尚 平 朝彦 COFFIN Milar
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

ソロモン海域ではオントンジャワ海台が北ソロモン海溝に衝突しており対応する島孤の逆(南)側ではサンクリストバル海溝からインドオーストラリアプレートが沈み込み始めているように見える。またインドオーストラリアプレート上でも西方でウッドラーク海盆で海洋底拡大が進行しつつ海溝に衝突しており,この地域は100kmスケールで見ても複雑な様相を呈している。このような場に見られる過程は現在の地球では特異に見えるが地球史の中では繰り返されてきたことが地質学的にわかっている。海台の沈み込みならびに沈み込み開始線(海溝)のジャンプ・逆転の起きているソロモン島孤海溝系において,地殻深部・最上部マントルの地震・地質構造を精密に調査することは,このように複雑な過程の普遍性を明らかにし,プレートの沈み込みがいかに始まるか,沈み込みにくい海台が海溝で衝突してどうなるか理解するために重要である。本研究は,日本の海底地震計技術と米国の反射法探査技術を有機的に結びつけてその目的達成をはかるものである。平成5-6年度の2カ年計画として実験を計画したが,米国側NSFに採択された調査船利用の反射法実験の実施が米国側の調査船のスケジュールが平成7年度にずれこんだため,当初の計画を変更して,6年度に日本側の海底地震計による自然地震観測を行い,反射法・屈折法による日米共同実験は平成7年度に実施することになった。したがって最終的な構造探査結果をあわせたとりまとめはその結果を待つことになる。5年度にはデジタル海底地震計の信頼性を向上させ,また,過去にすでに現地調査を行っている米国側共同研究者と研究対象域のテクトニクスの調査も行った。その結果,南側で開始されているという沈み込みに伴う自然地震活動の実態を把握することが重要との認識を得た。実際,定常的な地震活動はISC(国際地震学センター)による震源分布に頼るしかないが,これは100kmくらいの震源決定位置の誤差があることが今回わかった。6年度にソロモン諸島国地質調査所の協力も得て,海底地震計(OBS)をソロモン諸島に運び,現地傭船により5台用いて,海底微小地震観測を行った。位置および時刻はGPSによっている。期間は8/28日から9/7日までであった。観測ターゲット海域は強い季節風を避けざるを得なかったが,サンクリストバル海溝が浅くなるガダルカナル島西方とした。データは全台から良好に得られ,36ヶの近地地震を決定した。これは,他の観測網では検知されていないイベントである。また,ISCでは今回の観測域で年間平均10ヶの震源決定がなされている。今回の観測は200倍以上の検知能力を持ったことになる。その結果,あたらしく沈み込みを開始したインドオーストラリアプレート沈み込みは少なくとも50kmの深さまで進行しているが意外なことにその沈み込み角度が50度と他では見られない大きな値を示すことがわかった。また,背孤側に小海盆が見られるが,ここには地震が発生していないことが確認された。一方北側からの太平洋プレートの沈み込みの「痕跡?」として深さ60-90kmにも震源が求められた。はたして沈み込みが停止したかどうかこの結果だけからは結論づけられない。ガダルカナル島直下には地震が検知されなかった。これらは,グローバルな観測網の数10年のデータ蓄積をもってしても窺いしれない結果である。今後は陸上にも観測点を増やしてより長期のデータ収集を続ければ,さらに詳しい結果が得られるはずである。ソロモン諸島国と協力して実施したい。沈み込み角度が大きいことは,さらに観測を重ねてデータを増やして確認する必要がある。しかし,事実だとすると,一般に沈み込み初めの角度は10度未満程度であるので,北側からのオントンジャワ海台の衝突が大きな抵抗となっている可能性がある。小海盆部に地震のないことは他の島孤のリフトゾーンに地震の少ないことと合致する。平成7年度に予定している島孤全体を横断する人工地震実験測線から地殻の全貌を明らかにできればテクトニクス,地震活動との因果関係がさらに解明されるだろう。
著者
末廣 潔 末広 潔 COFFIN Milla SHIPLEY Thom MANN Paul 篠原 雅尚 平 朝彦
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

西太平洋に位置するソロモン海域ではオントンジャワ海台が北ソロモン海溝に衝突しており対応する島弧の逆(南)側ではサンクリストバル海溝から複雑な地形を持ったインドオーストラリアプレートが沈み込んでいる。このような過程は現在の地球では特異に見えるが地球史の中では繰り返されてきたことが地質学的にわかっている。海台の沈み込みならびに海溝のジャンプ・逆転の起きているソロモン島弧海溝系において,地殻深部・最上部マントルの地震・地質構造を精密に調査することは,このように複雑な過程の普遍性を明らかにし,とくに沈み込みにくい海台は海溝でどのような振る舞いをするのか理解するために重要である。本研究は,日本のデジタル海底地震計技術と米国の反射法探査技術を有機的に結びつけてその目的達成をはかったものである。平成7年度に日米共同実験として地震学的反射法・屈折法による地殻構造調査を主に,重力・地磁気観測も行い,当該海域ではじめてコンプリ-トな地殻構造実験が実施できた。7年度の7月には共同実験者とテキサス大学地球物理研究所において綿密な実験打ち合わせを行い,本実験は米国地球物理研究船モ-リス・ユ-イング号にて,10月17日-11月19日に実施した。この間,ソロモン諸島全域の約130チャネルの多重反射法音波探査データ(4050km)を取得し,かつグアダルカナル島西方においてオントンジャワ海台からインドオーストラリアプレート側まで464kmの長大測線に18台の海底地震計を配置した屈折・反射複合探査も行った。人工地震の震源はエアガンアレーで約140リットル,150気圧のエネルギーを約50m間隔でシューティングした。この結果,海底地震観測において地殻深部の情報がかつてない空間的密度で得られる。これまでの反射法の記録の解釈では,オントンジャワ海台は基本的には現在でも沈み込みを続けているという意外な結果である。これまで沈み込みせずに陸側に衝突しせりあがっているという解釈があったが,それは局所的現象のようである。ソロモン島弧のうちマレイタ島,サンタイサベル島の一部はオントンジャワ海台と地質・岩石的に区別が付かないので,せりあがりが起きていることは確かであるが,プレートの大部分は沈み込んでいる。陸側プレートがくさび状に海台を乗せたプレートを割っているか,それともたとえば南海トラフのように付加体を形成しながら沈み込んでいるかのふたつのモデルが考えられていたが後者の可能性が高い。より深部の構造を明らかにして決着をつけるべきであるが,今回得たデータは,まさにそれを可能にする。海底地震計はデジタル型であるのでダイナミックレンジが広くかつ時刻精度も高く,アナログ型では不可能な高品質データを得た。エアガンの信号を見ると,記録は300km以上届いているので,島弧系の全貌が明らかにされるはずである。これまでソロモン島弧はその地殻の厚さも不明であり,上部地殻の一部がしかも一次元的に明らかにされているだけであり,今回2次元的にトランセクトが得られる意義は大きい。これまで海洋性島弧でそのような構造が求められているのは北部伊豆・小笠原島弧だけであり,そこでは海洋性島弧に大陸性カコウ岩質岩石の生成現場としての位置づけがされている。同様な構造がここでも見られれば,海洋性島弧の存在は地球進化においてすなわち大陸地殻の成長に重要な役割を持つことになる。一方,大陸性地殻形成のもうひとつの重要な候補が海台である。海洋リソスフェア中にホットスポットあるいはマントルプルーム活動によって短期的に形成されるとする海台が,沈み込まず大陸に付加すると言う説である。今回の実験はこの両方を同時に検証することになる。プレートの沈み込み角度についてもこの実験により,グローバルな普遍性を検証するものとして位置づけられる。北側と南側とではその沈み込みパラメータは,年代,地殻,移動速度などどれをとってもかなり異なる。にもかかわらず,沈み込み始めは両側とも類似したごく浅い角度であると推定される。その原因はまだ検討中だが,いまのところほかの沈み込み帯の結果も同様であり,地質学的過去よりも単純なダイナミクスで説明できるる可能性が高い。