著者
吉永 進一 赤井 敏夫 橋本 順光 SHORE Jeff
出版者
舞鶴工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本科研において子孫宅に残された平井文書の撮影が大きな目標であったが、予算面の制約から全資料の撮影を完了することはできなかった。しかし撮影資料をデジタル化したことは研究のスピードアップにつながった。またシカゴ万国宗教会議などのアメリカにおける講演関係の新聞記事、日本での雑誌記事といった基礎的史料に関してはデジタル化して報告書付録DVDに収録することができた。これらのデジタル資料は、電子文書保存の国際標準仕様であるJIS Z6017に準拠して作成され、ダブリンコア仕様のメタデータを添付されており史料的価値は高い。この三年間において、吉永は平井文書みならず、仏教雑誌、『道』誌、『新公論』誌などの平井関係の資料を調査し、平井金三の全生涯について伝記的な研究を行うことができた。これによって、多様な領域で活動した平井の全体像を描くことが可能になった。橋本順光は平井を神智学や在米中国仏教徒との関連で論じ、西洋主導の近代世界の中で東洋の文化的自立を目指す運動のひとつとして評価した。赤井敏夫は明治期仏教における神智学の影響について書誌学的な研究をおこなった。Jeff Shoreは平井の手稿についての調査を、研究協力者の野崎晃市は平井とユニテリアンに関する研究を行い、同じく協力者の橋本貴は資料のデジタル化に関する論考を執筆した。以上の研究から、明治二〇年代の仏教復興が国際化と連動した動きであり、平井や鈴木大拙など、仏教とキリスト教の対立構図を脱して東西宗教思想の比較と融和に向かう動きがあったことが検証できた。今後の研究課題としては、第一に貴重な歴史資料である平井文書の撮影を完了することが急務である。第二に、アメリカでの仏教受容を検証するためには平井のアメリカ側への影響を実証的に調査する必要があると思われる。第三には、平井と道会などの日本生れのキリスト教との関係についてはさらなる考究が必要であろう。