著者
松浦 正孝 SKABELUND A.H
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

第二次世界大戦後、日本では、軍隊の役割及び「兵士」の意味が大きく変わった。「平和憲法」の制定、教育改革、また強い平和精神の定着により軍への支持は薄れていった。軍隊及び軍隊の理念は、20世紀の後半、世界中で、大きな不信感を持たれるようになったが、日本ほどこの傾向が強く、また永続的だった国はない。この研究は、「日本軍」の戦後の社会史に着目するにあたり、3つのテーマを提示する。第一に、帝国軍と自衛隊の間の組織的、思想的な連続性と断絶性である。第二に、米軍と自衛隊の対等でない同盟関係である。第三に、自衛隊と社会の関係である。自衛隊において目に見える大きな組織的な変化と目に見えない人事的あるいは思想的な連続性が存在したという視点は、今まで論じられてきた日本戦後の政治史と経済史とは異なった新たな歴史的文脈を提示するものと考えている。本研究実績として、自衛隊と米軍と地域社会との関係を探るために次の二つの研究手段をとった。第一に、自衛隊と米軍のやりとりを回顧録、口述歴史、また基地周辺地域でのインタビューによって見直した。この米軍のプレゼンスこそが、自衛隊の存在が不透明である理由の一つであると考えるからである。第二に、地域社会との関係を探る為に、北海道や他の地域で資料収集や隊員および自衛隊関係者とのインタビューを行った。半世紀の間、自衛隊は社会から敵意を受けることなく、関心を持たれず、殆ど尊敬されなかったのが実情であった。組織として、それに対して自衛隊はどういう対策を取ってきたか、また隊員はどういう経験をしてきたか調べた結果、特に災害援助と地域社会への貢献(札幌雪祭りなど)の経過に注目した。