著者
八柳 信之 新野 正之 熊川 彰長 五味 広美 鈴木 昭夫 坂本 博 佐々木 正樹 十亀 英司 YATSUYANAGI Nobuyuki NIINO Masayuki KUMAKAWA Akinaga GOMI Hiromi SUZUKI Akio SAKAMOTO Hiroshi SASAKI Masaki SOGAME Eiji
出版者
航空宇宙技術研究所
雑誌
航空宇宙技術研究所報告 = Technical Report of National Aerospace Laboratory TR-679 (ISSN:03894010)
巻号頁・発行日
vol.679, pp.96, 1981-08

「小型溝構造液水冷却燃焼器の研究」は宇宙開発事業団によって進められている推力10トン級 液酸・液水エンジン,LE-5の開発に必要な基礎資料を得るための,詳細な液水冷却特性に関するデータ,及び広範な燃焼条件に対する燃焼特性を把握することを目的とするものである。昭和52年度に冷却用液水供給装置および供試燃焼器一号機の製作を行い,53年度より航空宇宙技術研究所角田支所において燃焼試験を開始した。また,これと同時に液水冷却特性の解析上不可欠となる燃焼性能,及び燃焼ガス側熱負荷の詳細なデータを得るために,多分割型環状水冷却燃焼器を用いた水冷却燃焼試験を行なった。これらの累積燃焼試験時間は約140回,4200秒におよんだ。ところで,実際の液酸・液水エンジンでは燃焼器の冷却に用いられた液水が噴射器から燃焼室内に噴射されて,液酸と燃焼する再生冷却方式をとるのが普通である。しかし,本研究においては液水冷却特性に関して広い範囲の冷却条件でデータを得ることを目的としているため,冷却用液水の流量,供給圧力,温度等を燃焼用液水とは独立に変えられるように別系統とした“独立冷却方式”でも試験が行なえるように計画した。さらに独立冷却燃焼試験のデータを踏まえて,完全再生冷却燃焼試験の実証を行ない,設計点では冷却能力にまだ余裕のあること,特性速度効率で98%以上の値が得られることを確認した。このように小推力,F=3KN(300kgf),燃焼器で再生冷却燃焼が可能になったことは,燃焼器構造が従来の管構造燃焼器とは違って,銅製の溝構造(いわゆるSlotted wall)燃焼室としたことによるものである。これは冷却通路となる多数の溝を長手方向の設けたもので,スペース・シャトル主エンジン(SSME)等の高圧高性能エンジンに用いられている高熱負荷燃焼器と原理的に同じものであり,我国においては未経験のものである。これによって,冷却特性を明らかにするために必要な各部の温度,圧力測定が容易になるとともに,将来の高圧エンジンへの発展性をも考慮した詳細な試験データの取得が出来たものと考える。本報告で行なう試作1号機によって得られた主な結果を簡単に述べる。冷却特性については,①小推力溝構造液水冷却燃焼器により,設計点(燃焼圧力P=3.48MPa,混合比O/F=5.5)での完全再生冷却方式による燃焼が可能であり,冷却能力としては十分な余裕のあることが分かった。しかしながら,冷却条件を広範囲に変えて行なった独立冷却燃焼試験の結果から見て, ②従来より提唱されている殆んど全ての設計式が溝構造燃焼器における熱設計式としては不適当であり,かつ設計上危険性の高いことが分った。 ③試験後,供試燃焼器の切断検査を行なった結果,溝構造燃焼器をロー付接合によって製作する本方式には多くの問題点があり,新しい製作法の開発が望まれる。特に各冷却流路間の抵抗値の不均一さ,及び内筒の変形による内外筒接合部の剥離に問題がある。次に燃焼特性については ④混合比,水素噴射温度を広く変化させて特性速度効率におよぼす影響を調べた。その結果これらの効率への寄与は,著者らが以前に得た液体酸素・常温ガス水素燃焼の場合と同様に,ほぼ噴射速度比(水素噴射速度と液酸噴射速度の比)によって表わされることが分った。さらに再生冷却燃焼時に低混合比(O/F < 3)で約100Hzの低周波振動燃焼を起したが,それ以外の試験範囲ではほぼ安定な燃焼が行なわれた。