著者
五十嵐 章 WARACHIT Pai CHANYASANHA チャンチュ SUCHARIT Sup 長谷部 太 江下 優樹 CHANYASANHA Charnchudhi SAGWANWONGSE スラン
出版者
長崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

デング出血熱の発病機構と伝播に関する現地調査研究を、デング流行地の1つであるタイ国東北部ナコンパノム市において実施した結果、下記の知見が得られた。(1)デング患者のウイルス学的検査には、ELlSA記録計と抗原、酵素標識抗体などの測定用試薬が入手できればIgM‐ELlSAが適正技術である。それに対して、RT‐PCRは実験条件が整備されていない地方で日常検査に使用するには問題点が多い。但し、ウイルス分離は分離株の詳細な解析を行うために不可欠である。(2)6月に採取した患者血液検体からはデングウイルス1型、2型、3型が分離され、ナコンパノム市は依然としてデングウイルスの超汚染地域の1つであることが確認された。(3)患者プラスマ中のサイトカインに関して、不明熱患者に比べてデング患者ではIFN‐γが上昇しており、臨床的にデング出血熱と診断された患者の半数以上に見られた。(4)乾期に臨床的にデングと診断された患者は、デング以外の感染症の可能性が高い。(5)今回の調査において、乾期・雨期共に多数のネッタイシマカ成虫が採集され、その殆どはabdominal dorsal tergal pattern 1の黒い蚊であった。残念なことにネッタイシマカ雌成虫からデングウイルス遺伝子の検出は陰性であった。従って、当初予定していたabdominal dorsal tergal patternとウイルス感染率との関係、及びウイルス保有蚊の潜伏場所に関する知見は得られなかった。これらの課題は今後検討すべき価値があろう。(6)1〜2月の調査によって推定されたネッタイシマカの屋内潜伏場所にオリセットネツトを選択的に使用した結果、ネッタイシマカに対する防除効果が見られたことは、今後限られた経費と資源を有効に利用してデング媒介蚊防除を実施する上で重要な知見である。