著者
Shchepetunina Marina シピトウーニナ マリーナ
出版者
大阪大学大学院言語文化研究科
雑誌
外国語教育のフロンティア (ISSN:24339636)
巻号頁・発行日
no.1, pp.119-133, 2018-03-30

論文現代ロシア語の言語文化的な世界観に含まれるロシア文化の特徴には、異なる時代に生成された概念があると考える。本稿は言語において神話的思想に由来する表現や話法を研究対象とし、その形態の考察を行い、文化的なコンテクストに対照する。慣用句や言い回しには、伝統文化、儀式や信仰に根付いた祭りに由来するものもある。また、自然の現象に神霊が宿ると考えたり、太陽・月・風など自然現象を生き物に見立てたりするのはアニミズムの特徴であったが、こういった発想は現代のロシア語にも残っている。例えば、「楽しいことがあれば、つらいこともある」と意味するne vsyo kotu Maslenitsa, biwaet i Velikii post「猫はいつまでも謝肉祭を楽しむわけにはいかない、大斉期もあるから」という慣用句には、スラブ民族の多神教に由来する美味おいしいものを食べて楽しむ祭りであるマスレニツァ(謝肉祭) が、キリスト教の大斉期に対照されている。さらに、ロシアのおとぎ話をはじめ、ロシア古代文学、古典文学および現代の詩や歌には、人間は太陽や月などの自然現象と会話し、それらの現象は人間とまったく同じような行為をする話しもある。これらの話しには、太陽や月が人間の主人公に直接に会話をする例もある。さらに、風は「神様以外に恐れるものがない」(ne boishsya nikogo, krome boga samogo)、「花はお情けで気落ちした」(tveti unili ot zhalosti) のような文学からの用例のように自然に「恐れる」(boyatsya)、「情ける」(zhalet)、「気落ちする」(univat) のような人間の感情を表す言葉が自然の現象に使用されて、自然は人間と同じように行動して気持ちを表し意志を持つものとして理解されている場合が珍しくない。こういった古代思想・神話思想にさかのぼる言語文化的世界観は、キリスト教による多信仰に対する圧迫、それに続いてソ連時代の反宗教の政策にもかかわらずフォークロアおよび言語に存残する。本稿ではその経緯をダイクロイック的に考察し、ロシア語における自然の擬人化を歴史文化的なコンテクストに乗せてロシア語文化学的な世界観の一部として取り扱う。言語文化学的なアプローチによって、学習者はロシア語における自然の擬人化を文化世界観の一部として理解し、自然現象に使用される語彙・話法は学習しやすくなると考える。