著者
芝野 淳一 シバノ ジュンイチ Shibano Junichi
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.18, pp.81-96, 2013

本稿の目的は,高階層の人々が教育達成のために行うトランスナショナルな移動の内実を,高等教育進学以前にグアムへ海外留学している日本人学生の語りと現地でのフィールド調査の結果を手掛かりに明らかにすることである.調査の結果,次の3 つの事が明らかになった.①本事例の留学生たちは日本での学校経験をやり直すための「セカンドチャンス」を求めて海を渡ってきた.それは親の意向を色濃く反映したものであった.②彼らは留学当初,蓄積された資本(英語力や「海外経験」)を元手に日本の大学へ進学するという「成功物語」を描いていた.しかし,資本の蓄積が思いのほかハードであるという現実に直面した彼らは,「成功」へのプレッシャーと闘わなければならない状況に置かれおり,物語の崩壊を余儀なくされていた.③他方,自らの成功物語を書き換えながら次なるチャンスを模索し,トランスナショナルな移動を繰り返す学生や,日本に戻らず留学先に残り続ける学生も存在していた.この結果を踏まえ,トランスナショナルな移動と教育達成を単線的に結びつけて議論を展開してきた先行研究からは見えてこなかった移動することのリスクを明らかにしたこと,またその一方でトランスナショナルな空間が特権的な層に位置する人々の教育達成へのチャンスを与え続ける場になっていることを指摘した.