著者
芝野 淳一
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.111-130, 2014-11-28 (Released:2016-11-15)
参考文献数
26
被引用文献数
1

近年,海外子女教育研究では,日本人学校に駐在家庭以外の長期滞在・永住家庭や国際結婚家庭といった多様な背景をもつ日本人が参入し,学校内部がトランスナショナルな様相を帯びていることが指摘されている。そこで争点となっているのは,日本人学校に立ち現われる本質主義的な「日本人性」の問題である。本稿は,グアム日本人学校の教員が語る「日本らしさ」を「日本人性」の表れとして捉え,現場において「日本らしさ」が実践される局面と,それがトランスナショナルな日常を生きる教員にもたらす葛藤を描き出すものである。 本稿の知見は,三点である。①日本人学校が抱える経済的・制度的基盤の脆弱性を乗り越えるために,多様な背景をもつ日本人を呼び込み学校を安定させようとしていた。②教員は保護者の期待を反映させた象徴的かつノスタルジックな「日本らしさ」を戦略的に構築し,入学者確保を試みていた。その結果,多様な子どもが在籍するようになったにもかかわらず,教育内容はますます「日本らしさ」に方向づけられていくというパラドキシカルな状況が生じていた。③一方で,教員は「日本らしさ」に基づく教育実践と自らが経験するトランスナショナルな日常との間のズレを認識することで葛藤を抱えていた。さらに,それが「日本人性」がもつ自明性や権力性を問い直すことに結びつき,多様性に配慮した慎重な教育実践を編み出していた。 最後に,本稿の知見が当該領域に与える示唆を論じた。
著者
芝野 淳一 シバノ ジュンイチ Shibano Junichi
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.18, pp.81-96, 2013

本稿の目的は,高階層の人々が教育達成のために行うトランスナショナルな移動の内実を,高等教育進学以前にグアムへ海外留学している日本人学生の語りと現地でのフィールド調査の結果を手掛かりに明らかにすることである.調査の結果,次の3 つの事が明らかになった.①本事例の留学生たちは日本での学校経験をやり直すための「セカンドチャンス」を求めて海を渡ってきた.それは親の意向を色濃く反映したものであった.②彼らは留学当初,蓄積された資本(英語力や「海外経験」)を元手に日本の大学へ進学するという「成功物語」を描いていた.しかし,資本の蓄積が思いのほかハードであるという現実に直面した彼らは,「成功」へのプレッシャーと闘わなければならない状況に置かれおり,物語の崩壊を余儀なくされていた.③他方,自らの成功物語を書き換えながら次なるチャンスを模索し,トランスナショナルな移動を繰り返す学生や,日本に戻らず留学先に残り続ける学生も存在していた.この結果を踏まえ,トランスナショナルな移動と教育達成を単線的に結びつけて議論を展開してきた先行研究からは見えてこなかった移動することのリスクを明らかにしたこと,またその一方でトランスナショナルな空間が特権的な層に位置する人々の教育達成へのチャンスを与え続ける場になっていることを指摘した.