- 著者
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Simon Croft
北 潔
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.149, no.5, pp.220-224, 2017
- 被引用文献数
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<p>リーシュマニア症は典型的な「顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases:NTDs)」の一つであり,中南米,アフリカから中近東,ヨーロッパ,アジアそしてインドと世界中に患者が見られる点が特徴である.単細胞の寄生虫で鞭毛虫類に属するリーシュマニア<i>Leishmania</i>によって発症し,サシチョウバエによって媒介される.宿主哺乳類の中ではマクロファージに寄生していることからワクチンによる予防や治療は困難であり,薬剤による治療が中心となっている.しかし治療薬の現状は,長期の投与や激しい副作用など満足できる状態ではない.そこで,薬剤開発と治療デザインを考えるにあたっては,リーシュマニア症の特徴である多様な症状と病原体の原虫としての多様性を理解することが必須である.リーシュマニア症は2つに大別され,皮膚リーシュマニア(cutaneous leishmania:CL)においては主に感染がサシチョウバエに刺された部位に成立するが,<i>Leishmania donovani</i>や<i>L. infantum</i>などによる内蔵リーシュマニア(visceral leishmania:VL)では肝臓や脾臓,骨髄のマクロファージに感染し,治療しなければ死をもたらす.このような問題を解決するには安価で投与しやすく効果的で,しかも小児への投与を含む短期間投与が可能な新規薬剤の開発が喫緊の課題である.VLとCL両者のリーシュマニア症の新しい治療法の開発は不可欠であり,われわれはこの原虫に関する生物学,病理学,医薬品化学,薬物動態学や製剤学などを統合して新薬の開発と新たな治療法の確立をめざしている.近い将来にリーシュマニア患者に新しい治療法が提供されることを確実にするためには製薬企業,政府や非営利組織を含む国際機関,バイオテクノロジーセクターおよびアカデミアのパートナーシップと弛まぬ努力が必要である.</p>