著者
Sridhara NAYAK 竹見 哲也
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.6, pp.1147-1162, 2020 (Released:2020-12-12)
参考文献数
59
被引用文献数
12

極端降水の振る舞いを説明する上でのクラウジウス-クラペイロン(CC)スケーリングの有用性について、現在気候および疑似地球温暖化(PGW)条件で調べた。日本で発生した最近の2つの極端降水イベント、すなわち2017年7月5~6日の九州北部での豪雨および2018年7月5~8日の四国での豪雨を対象として、格子解像度1 kmでの領域気象シミュレーションにより解析した。数値シミュレーションにはWeather Research and Forecasting(WRF)モデルを用い、モデルデータは1時間間隔で格子点毎の値として出力し、解析に用いた。極端に強い降水の発生頻度とその強度は、時間雨量強度で評価すると、2つのイベントともに、PGW条件下で増大する。極端に強い降水(> 50 mm h-1)は、現在気候条件では気温22℃に上がるまでCCスケーリングにしたがい、PGW条件では24℃の気温に上がるまでCCスケーリングにしたがう。降水と気温の関係において、極端降水のピーク強度は、現在気候条件では25℃で約140 mm h-1であり、一方、PGW条件では 27℃で約160 mm h-1となる。極端降水の気温に対する増加率は、現在気候条件では約3% ℃-1であり、PGW条件では約3.5% ℃-1であることが分かった。将来の温暖化気候におけるピーク降水強度の増加と気温に対する降水量の増加率は、気温減率の減少にもかかわらず、大気中の水蒸気および不安定エネルギーが増加することに起因する。著者の知る限りでは、本研究の結果は、事例解析ではあるものの、極端降水に対するCCスケーリングについて定量的に調べた最初の取り組みであると言える。