著者
井良沢 道也 多賀谷 拓也 IRASAWA Michiya TAGHAYA Takuya
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.44, pp.103-117, 2013-06

近年の土砂災害による犠牲者は高齢者の割合が高く,中山間地は災害により地域の存在すら脅かされるような壊滅的な被害を受けやすい。今後さらに中山間地における過疎化・高齢化は一層深刻となり,地域防災力の低下が懸念されている。誰もが安全で安心して暮らせるように,地域住民と行政とが一体的に施策を実施することが急務である。こうした土砂災害に対して,警戒避難体制の整備がこれまで進められてきたが,実際には災害発生前に避難勧告等の発令が少ない,避難勧告等が発令されても避難する住民が少ないなどの課題があげられる。確実な予測が困難な自然災害において,より安全な避難を考えるとき,重要なのは自主的な意識である。行政が発信する警報や避難勧告に頼るばかりではなく,降雨情報や土砂災害ハザードマップ等を活用し,自分自身で危険を察知して行動する必要がある。しかし,住民のみの取り組みによってそのような姿勢を身に付けることは難しい。そこで,防災教育が注目されている。とくに小学校における防災教育は,早期からの防災意識啓発や地域との連携が取りやすいという点で大きな意義がある。小学生に対して有効な防災教育を行った場合,小学生はその保護者へ向けても防災知識を波及するという結果が得られた。このことから,小学生への防災教育は地域全体の防災意識の向上につながる可能性があるといえる。ただし,現状では防災教育における課題点は多い。第1に,小学校において土砂災害防止教育のための十分な時間を確保することが困難な点である。第2に,必ずしも教員や児童の身近な場所で土砂災害が発生しているとは限らず,教材自体の不足も相まって,見聞の取得が困難な場合が多い点が挙げられる。また,防災教育の具体的手法はいまだ明確化されていない。体系化もなされていない条件下で本格的な防災教育を行うことは,教師の負担をさらに増やすことになるという指摘もある。加えて,現行の防災教育における小学生への学習効果を定量的に評価した研究事例は少ない。効果的教育手法の模索と防災教育の体系化を目指し,今後も基礎的研究の蓄積が求められている。こうしたことから児童及び教諭等へのアンケート調査及び聞き取り調査により小学校における防災学習会の効果の把握を行った。