著者
井良沢 道也 柴田 貴司
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 = Bulletin of the Iwate University Forests (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.40, pp.137-146, 2009-03

近年、台風や前線性豪雨、そして地震などにより全国各地で土砂災害が発生し、大きな被害を与えている。こうした土砂災害に対して、警戒避難体制の整備がこれまで進められてきたが、実際には(1)災害発生前に避難勧告等の発令が少ない、(2)避難勧告等が発令されても避難する住民が少ないなどの課題があげられている。さらに近年の集中豪雨の増加や、少子高齢化などの社会的状況の変化に関連し、被災形態が従来よりも激化する様相を呈しており、ハード及びソフト対策が急務となっている。特に東北地方は全国よりも過疎化・高齢化の進行している地域が多く、災害に対する脆弱性が指摘されている。こうした中で、筆者らは地域コミュニケーションの確保・増大は土砂災害に対する減災を考える上で最も重要なものの一つと考えている。2007年2月7日福島県金山町小栗山地区牛兵衛沢地区で発生した土砂災害は深夜に発生したが、住民らの目撃による自主避難で幸いにも人命災害には至らなかった。崩壊地及び渓流内には大量の不安定土砂が堆積して再度土砂流出の発生が懸念されたため、災害癸生日より2008年5月13日まで地域住民は避難を強いられた。本地区における住民の災害に対する認識、災害発生時の状況、避難生活の状況などを把握するため住民聞き取り調査を行ったのでその結果を報告する。
著者
阪本 芳弘 青井 俊樹
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.37, pp.17-27, 2006-03
被引用文献数
3

We investigated the food habits of Asiatic black bears of the northern Ohu Mountains in Japan. From May to December in 2004, we collected a total of 114 scats-27 from Morioka City and 87 from Shizukuishi Town. The percent importance value of eachfood item was estimated on the basis of the frequency of its occurrence and the total volume of all food items (Mealey, 1980). The primary food items consumed by the bears in spring were beech (Fagus crenata) shoot and dwarf bamboo (Sasa sp.), while the items consumed in summer were soft masts, animal materials, and succulent forbs [especially parsley (Umbelliferae sp.) ]. However, in the month of August, the bears concentrated on eating crops. The primary food items in autumn were acorns (Fagaceae sp.). With the passage of each season, there was a distinct change not only in the bear's diet but also in its foraging area, for example, beech forests in spring, the vicinity of streams and fields in summer, and broadleaved forests in autumn. Therefore, the preservation of their natural habitats may be essential for ensuring their coexistence with humans.
著者
井良沢 道也 馬場 潤 高橋 祐紀
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.42, pp.79-95, 2011-06

岩手・宮城内陸地震被災流域において,気象・融雪観測を行った。気象・融雪観測を行った5箇所(一関No.1~4,荒砥沢No.5) の気象・融雪観測の総括表を表-3に示す。 岩手・宮城内陸地震被災流域における気象・融雪観測によって,以下の課題が得られた。融雪水量の観測より磐井川No4地点は標高が260mと低く,12月から3月にかけて気温がプラスとなる日も多く,融雪だけでなく,降雨が積雪中を浸透する現象も考慮する必要がある。磐井川支川の産女川で2009年4月21日から22日に小規模な泥流が発生した。設置していた監視カメラにその画像を捉えることができた。近傍の一関No.2では2009年4月21日に簡易熱収支法から求めた積雪層底面からの排出水量110.2mm/day,22日は74.1mm/dayであり,融雪期間中最大の値であった。降雨と融雲水により不安定な河道堆積物層が流動化したものと推定される。なお,本流域では厳冬期にも降雨を記録する日があり,ライシメータ実測値には表面発生融雪量の他に降雨量を考慮{する必要がある。地温計の分析により気温の高くなる融雪末期では0℃に近くなり,0℃の融雪水が地表に活発に供給されている様子が伺えた。積雪が無くなると地温は急上昇しはじめる。気温と地温の変動から根雪及び消雪の期間の推定,及び融雪の活発な時期をある程度推定することが可能となる。山地災害の発生した流域全体に,地震発生以降は融雪や降雨によって全般に大きなニ次災害は発生していない。しかし,岩手県一関総合支局の調査では厳美町市野々原地区において新規崩壊や拡大崩壊箇所が51箇所確認されている。地震以後については,一関No.1~3地点では約2年分,一関No.4地点,荒砥沢No.5地点では約1年分のデータしかない。さらに様々な条件下での気象・融雪特性を把握していくためには,今後も継続的に観測及び解析を行う必要がある。さらに,多角的な視点から地震発生以降の土砂生産,土砂移動の挙動の対応など分析していく。これまで,融雪現象に関する研究例は小島(5)に代表されるように,北海道で盛んに行われてきた。本地域では厳冬期でも降雨を記録することが多いため,北海道とは気温などの気候条件と共に融雪現象にも違いが見られるとされる。そのため,今後,東北地方を中心とする積雪地帯において融雪と土砂災害との関連性を検討した研究事例(6-8)が増えることを期待する。
著者
國崎 貴嗣
出版者
[岩手大学農学部]
巻号頁・発行日
no.47, pp.49-58, 2016 (Released:2016-11-22)

単純無作為抽出法により,標本の大きさ96個(スギ79林分,アカマツ12林分,カラマツ5林分)の標本が得られた。間伐時の林齢における中央値は38年,本数間伐率における中央値は48%,間伐直後の推定相対幹距における中央値は18.6%であった。信頼度95%で母比率の信頼区間を推定すると,強度間伐実施から5~8年が経過した母集団全体のうち,下層植生被度が4以上であった林分割合は81~94%であった。また,低木層が形成された林分割合は62~80%であった。強度間伐実施後5~8年の場合,経過年数が1年増えるごとに,下層植生被度が4未満になりやすく,また,樹種がアカマツ・カラマツの場合,スギよりも低木層が形成されやすかった。
著者
井良沢 道也 多賀谷 拓也 IRASAWA Michiya TAGHAYA Takuya
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.44, pp.103-117, 2013-06

近年の土砂災害による犠牲者は高齢者の割合が高く,中山間地は災害により地域の存在すら脅かされるような壊滅的な被害を受けやすい。今後さらに中山間地における過疎化・高齢化は一層深刻となり,地域防災力の低下が懸念されている。誰もが安全で安心して暮らせるように,地域住民と行政とが一体的に施策を実施することが急務である。こうした土砂災害に対して,警戒避難体制の整備がこれまで進められてきたが,実際には災害発生前に避難勧告等の発令が少ない,避難勧告等が発令されても避難する住民が少ないなどの課題があげられる。確実な予測が困難な自然災害において,より安全な避難を考えるとき,重要なのは自主的な意識である。行政が発信する警報や避難勧告に頼るばかりではなく,降雨情報や土砂災害ハザードマップ等を活用し,自分自身で危険を察知して行動する必要がある。しかし,住民のみの取り組みによってそのような姿勢を身に付けることは難しい。そこで,防災教育が注目されている。とくに小学校における防災教育は,早期からの防災意識啓発や地域との連携が取りやすいという点で大きな意義がある。小学生に対して有効な防災教育を行った場合,小学生はその保護者へ向けても防災知識を波及するという結果が得られた。このことから,小学生への防災教育は地域全体の防災意識の向上につながる可能性があるといえる。ただし,現状では防災教育における課題点は多い。第1に,小学校において土砂災害防止教育のための十分な時間を確保することが困難な点である。第2に,必ずしも教員や児童の身近な場所で土砂災害が発生しているとは限らず,教材自体の不足も相まって,見聞の取得が困難な場合が多い点が挙げられる。また,防災教育の具体的手法はいまだ明確化されていない。体系化もなされていない条件下で本格的な防災教育を行うことは,教師の負担をさらに増やすことになるという指摘もある。加えて,現行の防災教育における小学生への学習効果を定量的に評価した研究事例は少ない。効果的教育手法の模索と防災教育の体系化を目指し,今後も基礎的研究の蓄積が求められている。こうしたことから児童及び教諭等へのアンケート調査及び聞き取り調査により小学校における防災学習会の効果の把握を行った。
著者
井良沢 道也 馬場 潤 高橋 祐紀 IRASAWA Michiya BABA Masaru TAKAHASHI Yuki
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.42, pp.79-95, 2011-06

岩手・宮城内陸地震被災流域において,気象・融雪観測を行った。気象・融雪観測を行った5箇所(一関No.1~4,荒砥沢No.5) の気象・融雪観測の総括表を表-3に示す。 岩手・宮城内陸地震被災流域における気象・融雪観測によって,以下の課題が得られた。融雪水量の観測より磐井川No4地点は標高が260mと低く,12月から3月にかけて気温がプラスとなる日も多く,融雪だけでなく,降雨が積雪中を浸透する現象も考慮する必要がある。磐井川支川の産女川で2009年4月21日から22日に小規模な泥流が発生した。設置していた監視カメラにその画像を捉えることができた。近傍の一関No.2では2009年4月21日に簡易熱収支法から求めた積雪層底面からの排出水量110.2mm/day,22日は74.1mm/dayであり,融雪期間中最大の値であった。降雨と融雲水により不安定な河道堆積物層が流動化したものと推定される。なお,本流域では厳冬期にも降雨を記録する日があり,ライシメータ実測値には表面発生融雪量の他に降雨量を考慮{する必要がある。地温計の分析により気温の高くなる融雪末期では0℃に近くなり,0℃の融雪水が地表に活発に供給されている様子が伺えた。積雪が無くなると地温は急上昇しはじめる。気温と地温の変動から根雪及び消雪の期間の推定,及び融雪の活発な時期をある程度推定することが可能となる。山地災害の発生した流域全体に,地震発生以降は融雪や降雨によって全般に大きなニ次災害は発生していない。しかし,岩手県一関総合支局の調査では厳美町市野々原地区において新規崩壊や拡大崩壊箇所が51箇所確認されている。地震以後については,一関No.1~3地点では約2年分,一関No.4地点,荒砥沢No.5地点では約1年分のデータしかない。さらに様々な条件下での気象・融雪特性を把握していくためには,今後も継続的に観測及び解析を行う必要がある。さらに,多角的な視点から地震発生以降の土砂生産,土砂移動の挙動の対応など分析していく。これまで,融雪現象に関する研究例は小島(5)に代表されるように,北海道で盛んに行われてきた。本地域では厳冬期でも降雨を記録することが多いため,北海道とは気温などの気候条件と共に融雪現象にも違いが見られるとされる。そのため,今後,東北地方を中心とする積雪地帯において融雪と土砂災害との関連性を検討した研究事例(6-8)が増えることを期待する。