著者
井良沢 道也 高橋 歩 IRASAWA Michiya TAKAHASHI Ayumu
出版者
岩手大学農学部附属寒冷フィールドサイエンス教育研究センター
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.44, pp.69-84, 2013-06

近年においても集中豪雨や地震等による土石流,地すべり,がけ崩れなどの土砂災害があとを絶たない。全国における約52万の土砂災害危険箇所に対する整備率は2割と未だ低い水準にあり,警戒避難等のソフト対策の推進は急務である。こうした中,岩手県においては2011年東日本大震災や2008年岩手・宮城内陸地震など地震による災害が多発している。一方で, 2004年7月の釜石市での土石流による死者2名を出した災害や2011年9月の二戸市浄法寺町でのがけ崩れで死者1名を出した災害など降雨による土砂災害も多発している。二戸市は1999年10月にも低気圧による集中豪雨に見舞われ,いわゆる「1999年二戸豪雨災害」が発生した。本災害によりニ戸市北部の金田一地区で土石流により死者2を出した。これまで本豪雨災害において土砂災害を対象とした住民意識調査はなされていない。そこで,金田一地区において土石流による死者の出た「温泉駅前」と「下山井」,浸水被害の激しかった「湯田」の3地区を調査対象地として選定し,災害当時の避難状況や前兆現象の有無などについて調べたので,その結果を報告する。
著者
井良沢 道也 多賀谷 拓也 IRASAWA Michiya TAGHAYA Takuya
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.44, pp.103-117, 2013-06

近年の土砂災害による犠牲者は高齢者の割合が高く,中山間地は災害により地域の存在すら脅かされるような壊滅的な被害を受けやすい。今後さらに中山間地における過疎化・高齢化は一層深刻となり,地域防災力の低下が懸念されている。誰もが安全で安心して暮らせるように,地域住民と行政とが一体的に施策を実施することが急務である。こうした土砂災害に対して,警戒避難体制の整備がこれまで進められてきたが,実際には災害発生前に避難勧告等の発令が少ない,避難勧告等が発令されても避難する住民が少ないなどの課題があげられる。確実な予測が困難な自然災害において,より安全な避難を考えるとき,重要なのは自主的な意識である。行政が発信する警報や避難勧告に頼るばかりではなく,降雨情報や土砂災害ハザードマップ等を活用し,自分自身で危険を察知して行動する必要がある。しかし,住民のみの取り組みによってそのような姿勢を身に付けることは難しい。そこで,防災教育が注目されている。とくに小学校における防災教育は,早期からの防災意識啓発や地域との連携が取りやすいという点で大きな意義がある。小学生に対して有効な防災教育を行った場合,小学生はその保護者へ向けても防災知識を波及するという結果が得られた。このことから,小学生への防災教育は地域全体の防災意識の向上につながる可能性があるといえる。ただし,現状では防災教育における課題点は多い。第1に,小学校において土砂災害防止教育のための十分な時間を確保することが困難な点である。第2に,必ずしも教員や児童の身近な場所で土砂災害が発生しているとは限らず,教材自体の不足も相まって,見聞の取得が困難な場合が多い点が挙げられる。また,防災教育の具体的手法はいまだ明確化されていない。体系化もなされていない条件下で本格的な防災教育を行うことは,教師の負担をさらに増やすことになるという指摘もある。加えて,現行の防災教育における小学生への学習効果を定量的に評価した研究事例は少ない。効果的教育手法の模索と防災教育の体系化を目指し,今後も基礎的研究の蓄積が求められている。こうしたことから児童及び教諭等へのアンケート調査及び聞き取り調査により小学校における防災学習会の効果の把握を行った。
著者
井良沢 道也 馬場 潤 高橋 祐紀 IRASAWA Michiya BABA Masaru TAKAHASHI Yuki
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.42, pp.79-95, 2011-06

岩手・宮城内陸地震被災流域において,気象・融雪観測を行った。気象・融雪観測を行った5箇所(一関No.1~4,荒砥沢No.5) の気象・融雪観測の総括表を表-3に示す。 岩手・宮城内陸地震被災流域における気象・融雪観測によって,以下の課題が得られた。融雪水量の観測より磐井川No4地点は標高が260mと低く,12月から3月にかけて気温がプラスとなる日も多く,融雪だけでなく,降雨が積雪中を浸透する現象も考慮する必要がある。磐井川支川の産女川で2009年4月21日から22日に小規模な泥流が発生した。設置していた監視カメラにその画像を捉えることができた。近傍の一関No.2では2009年4月21日に簡易熱収支法から求めた積雪層底面からの排出水量110.2mm/day,22日は74.1mm/dayであり,融雪期間中最大の値であった。降雨と融雲水により不安定な河道堆積物層が流動化したものと推定される。なお,本流域では厳冬期にも降雨を記録する日があり,ライシメータ実測値には表面発生融雪量の他に降雨量を考慮{する必要がある。地温計の分析により気温の高くなる融雪末期では0℃に近くなり,0℃の融雪水が地表に活発に供給されている様子が伺えた。積雪が無くなると地温は急上昇しはじめる。気温と地温の変動から根雪及び消雪の期間の推定,及び融雪の活発な時期をある程度推定することが可能となる。山地災害の発生した流域全体に,地震発生以降は融雪や降雨によって全般に大きなニ次災害は発生していない。しかし,岩手県一関総合支局の調査では厳美町市野々原地区において新規崩壊や拡大崩壊箇所が51箇所確認されている。地震以後については,一関No.1~3地点では約2年分,一関No.4地点,荒砥沢No.5地点では約1年分のデータしかない。さらに様々な条件下での気象・融雪特性を把握していくためには,今後も継続的に観測及び解析を行う必要がある。さらに,多角的な視点から地震発生以降の土砂生産,土砂移動の挙動の対応など分析していく。これまで,融雪現象に関する研究例は小島(5)に代表されるように,北海道で盛んに行われてきた。本地域では厳冬期でも降雨を記録することが多いため,北海道とは気温などの気候条件と共に融雪現象にも違いが見られるとされる。そのため,今後,東北地方を中心とする積雪地帯において融雪と土砂災害との関連性を検討した研究事例(6-8)が増えることを期待する。