著者
岩坂 泰信 TROCHKINE Dmitri
出版者
金沢大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

東アジア起源の鉱物粒子、いわゆる黄砂の性状を調べる目的で2004年の3月と10月に直接観測を行った。いずれの観測においても、気球搭載の自動インパクター集塵装置(AIS)を使用したことにより黄砂発生源地域(敦煌市、中国)上空、特に自由対流圏高度に存在する大気中粒子状物質(大気エアロゾル)の採集に成功してる。このAISは大気エアロゾルをサイズ別に採集できる2段式インパクターを3個装備可能で、高度別に試料を得られるのが特徴である。これと並行し、同様の技術で地上における大気エアロゾルの採集も行った。また、AIS放球後短時間のうちに同じく気球搭載の光散乱式粒子個数濃度測定器(OPC)を打ち上げ、どの高度にどの大きさの粒子が卓越しているのか、という粒子の分布状態も調べられた。黄砂が大陸内部で発生した後、長距離輸送される過程でどのような変質をうけるのか、この問題解明には、発生源と風下地域の両地点での比較が必要である。汚染物質と黄砂の関連を調べる目的で、東アジア有数の都市域である北京市内においても係留気球を用いた観測を行っている。各地点で採集された大気エアロゾル試料は後にエネルギー分散型X線分析器(堀場、EMAX-500)搭載の走査型電子顕微鏡(日立、S-3000N)により粒子個々に観察、分析された。その結果、発生源地域上空、自由対流圏で採集された(より長距離輸送に寄与すると思われる)黄砂の粒子表面は季節を問わず「きれい」な状態にあったことがわかった。一方、風下地域で採集された黄砂の粒子表面には硫酸塩等の存在が確認されている。黄砂に含まれる硫黄の含有量が母体となる黄砂の組成、採集時の相対湿度などに依存していたことから、風下における硫酸塩の存在は粒子表面で起きる不均一反応によりSO_2が酸化され、生成した結果であると指摘した。以上の結果は学術雑誌に投稿準備中である。