著者
TSUNEKI KATSUJI
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
日本鱗翅学会特別報告 (ISSN:05495210)
巻号頁・発行日
no.1, pp.167-172, 1965-12-30

白水隆博士の送付された3頭の蜂類を検した結果をここに記録した.これらのうち1頭はPsen属の新亜種であり,1頭はホソギングチバチ属の新種であった. 1. クロバネセイボウ Chrysis (Chrysis) fuscipennis RULLE. ♀. 原種は金緑色の青蜂であり,日本本土の亜種murasakiは濃紫色である.標本は両者の中間状を呈し,琉球産のものに近い.台湾産のものは多くは原種に属する. 2. 夕イワンプセンバチ Psen (Psen) koreanus formosensis subsp. nov. ♀. (付図1-4) チョウセンプセンバチの亜種であるが,第3触角節が長幅比でやや大である点(=より長い),胸部の点刻がより小である点で区別できる.本土産のハクサンプセンバチPsen hakusanus TSUNEKIにも類似するが,本亜種では点刻が遥かに粗大である点で異なる.なお,比島産のPsen coriaceus LITH, ジャバ産のPsen elisabethae LITH(両者は亜種関係のようである)にも近似するが,体に青味を欠くことによって容易に区別でき,点刻・中節の彫刻も異なる. 3. シロウズギングチRhopalum (Latrorhopalum) shirozui sp. nov. ♀. (付図5-15) ホンギングチ属の中で,ク口ホソギングチ亜属は外部生殖器の構造・体に光沢を欠くこと,額域が明瞭であること,腹柄が後転・腿節の和より長いこと等の特徴で明らかな自然群をなすものであり,アジアの特産群である従来インド(高地)・チべット・日本・朝鮮・樺太から計5種が知られていた.台湾(渓頭(ケイトウ), 約1150m)から6番目の種類が発見されたことは興味深い.本種は前胸前側角が歯状に突出している点で,極めて容易に全ての既知種から区別できるが,また頭楯・触角・前中肢の第1附節・第8腹面節等にも顕著な特徴がある.触角節および脚の変形度からみると,本種は日本および朝鮮の2種より進化の度がやや低く,インドのものより高いことが結論される.ギングチバチには日本列島とヒマラヤ地方とに共通するもので,しかも他地方にその類を見ない亜属が幾つかあるが,台湾は調査不十分のため何も分っていなかった.今回白水博士の採集品により,台湾がその1グループに関連して浮び上ったことは,大いに意義あることである.