著者
土井 康孝 辻田 美和 辻田 忠弘 Yasutaka Doi Miwa Tsujita Tadahiro Tsujita
出版者
甲南大学
雑誌
甲南大学紀要. 理工学編 = Memoirs of Konan University. Science and engineering series (ISSN:13480383)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-26, 2003-07-31

東洲斎写楽の現存する浮世絵版画141点のうち、第一期作28点は写楽の作品で最も人気があり、それらすべてが役者絵である。役者絵なので女性の絵もすべて男性が演じているものである。写楽は女性の絵画を1点も残していないとされている。しかしその女性絵画は男性が演じているにもかかわらず女性の特徴を持つ。そこで写楽の浮世絵版画の第一期作の役者絵を男女に分けて目に焦点を当てて分析をおこなった。ある男役の順に男女12種類の目を当てはめたものを作り、被験者10人に対して男性の目か女性の目かという判断を行った。その際、女性の目を男性の顔に当てはめても明らかに違和感があるものはなかったが、女性の目を男性の目と区別できる人が多かった。そこで判別分析を用いて目の形状から男女の目の判別を行った。その結果、F_x=4.713Z_1-2.804Z_2+2.274Z_3-2.788という線形判別関数で男女の目を判別することができた。そして男女の目の判別において目の交差角が最も影響を与えることがわかった。次に上で求めた線形判別関数に実際の数値を代入し結果を求めた。その結果、男性の目でありながら女性の目であると判別されたものは1点だけであった。この目は女性の目であると判断されることが多かった目であった。すなわち、すべて男性でありながら男役と女役ではそれぞれの目を用いて男女の区別を行い、役者の特徴を出していることがわかった。目の交差角の分布をもとに6グループに分類し各グループから1つずつ目を選び男女の順に当てはめたものを作った。それらを画面に一度に表示し、30ペア60種類の感情表現を表示し最も当てはまると思われる絵画を被験者に選んでもらうことから男女の目をいろいろと変えることによって、目だけを変えた役者からどのようなイメージをうけるかという実験結果を得た。その結果、男女どちらの場合であっても男役の目を当てはめたほうが多くのプラスイメージの感情表現を得ることができ、女役の目を当てはめたときにはマイナスイメージの感情表現を得た。また、ディスプレイ上に絵画を一枚ずつ表示し対になる感情表現を与えSD (Semantic Differential)法を用いて分析を行っても、女性の目を当てはめたときのほうがマイナスイメージを与えるということがわかった。