著者
玉井 眞理子 Tamai Mariko タマイ マリコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.3, pp.91-104, 1998-03

本論文の目的は、初期シカゴ学派モノグラフの一つ『ジャック・ローラー』の生活史法を再評価することである。これまでこのモノグラフは生活史を入手する手法や、他の多くの資料を用いて生活史を実証している点が評価されてきた。だがここで特に注目する方法論上の特徴は、調査者クリフォード・ショウと調査対象者スタンレー少年が矯正者(更生させる者)と矯正対象者(更生される者)の関係にあり、研究の過程で矯正計画が試みられ、その結果現実に少年が更生することによって、非行要因に関するショウの仮説が検証されていることである。この仮説検証は、(1)他の様々な資料によって非行要因の仮説が提示され、(2)非行少年の生活史によって仮説が裏付けられ、(3)仮説に基づいた矯正計画を実施し、非行少年が更生してゆく経緯がその生活史で示される、の三部構成で展開されている。これは「単に記述的であるだけで、なぜかという疑問に答えていない」という、質的調査になされてきた従来の批判を越えるものであり、生活史法の新たな可能性を開拓したとして評価される。