著者
玉井 眞理子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.302-318, 2016 (Released:2017-12-31)
参考文献数
37

本稿では, クリフォード・ショウのモノグラフをアメリカ移民史のなかに位置づけ, ショウのライフヒストリー研究の再検討を行った. その意義は, ショウのライフヒストリー研究の歴史的・社会的意義を問い直し, ライフヒストリー研究が切り拓く社会学的地平を展望することにある.本稿ではまずショウのモノグラフに対する先行研究をまとめ, それとの対比で本研究が持つ独自の視点を説明した. 次にアメリカ移民史を概観する中で, 移民マイノリティに対する偏見がアメリカ社会で公式に共有されていたことについて論じ, ショウのモノグラフが書かれるに至った社会的背景を明らかにした. 続いて『ジャック・ローラー』 (1930[1966]), 『非行歴の自然史』 (1931), 『犯罪に手を染める兄弟たち』 (1938) のいわゆる「生活史三部作」が著された当時, 逸脱者を移民マイノリティに結びつける偏見が広く社会に浸透していた社会的背景に触れ, スラムの移民の子どもたちが置かれていた状況をこれらの作品をもとに素描した. そこではショウのモノグラフが, この偏見が現実とどれほど大きく食い違っているかを例証していることが浮き彫りになる. 最後にショウのライフヒストリー研究が有する歴史的・社会的意義をまとめ, 移民マイノリティとの共生を目指すことにこれらの研究の真意があったことを明らかにした.
著者
玉井 眞理子 Tamai Mariko タマイ マリコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.3, pp.91-104, 1998-03

本論文の目的は、初期シカゴ学派モノグラフの一つ『ジャック・ローラー』の生活史法を再評価することである。これまでこのモノグラフは生活史を入手する手法や、他の多くの資料を用いて生活史を実証している点が評価されてきた。だがここで特に注目する方法論上の特徴は、調査者クリフォード・ショウと調査対象者スタンレー少年が矯正者(更生させる者)と矯正対象者(更生される者)の関係にあり、研究の過程で矯正計画が試みられ、その結果現実に少年が更生することによって、非行要因に関するショウの仮説が検証されていることである。この仮説検証は、(1)他の様々な資料によって非行要因の仮説が提示され、(2)非行少年の生活史によって仮説が裏付けられ、(3)仮説に基づいた矯正計画を実施し、非行少年が更生してゆく経緯がその生活史で示される、の三部構成で展開されている。これは「単に記述的であるだけで、なぜかという疑問に答えていない」という、質的調査になされてきた従来の批判を越えるものであり、生活史法の新たな可能性を開拓したとして評価される。
著者
櫻井 晃洋 古庄 知己 和田 敬仁 涌井 敬子 玉井 眞理子 川目 裕 福嶋 義光
出版者
日本家族性腫瘍学会
雑誌
家族性腫瘍 (ISSN:13461052)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.51-56, 2005
被引用文献数
1

信州大学医学部では毎年4 年次生を対象として遺伝カウンセリング・ロールプレイ実習を行っている.グループ毎に提示された症例における医学的問題や家族の悩みを整理し,医学的情報をどのように伝えるべきか,それに対し患者・家族はどう受け止めるかを議論する.その上でシナリオを作成し,学生,教官,学外の遺伝カウンセリング専門家の前で発表して批評を受ける. 実習後の学生の反応としては,担当した疾患についての知識を深められたことと同時に,わかりやすく情報を伝えることの難しさ,情報を伝えられる側の気持ちを思いやることの重要性,医師の発言が患者・家族に与える影響の大きさについて深く考える機会になったとの感想が多くみられた.遺伝カウンセリング・ロールプレイで時間をかけて患者・家族の思いを想起し,これに基づいた対応を考えていくプロセスは遺伝医学実習として役立つのみならず,医師としての基本的な態度レベルの向上においても有意義であると考えられる.
著者
位田 隆一 甲斐 克則 木南 敦 服部 高宏 ベッカー カール 藤田 潤 森崎 隆幸 山内 正剛 増井 徹 浅井 篤 江川 裕人 加藤 和人 熊谷 健一 玉井 眞理子 西村 周三
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、ゲノム科学、再生医療、臓器移植、ヒト胚研究等の生命科学・医学の諸分野の科学的発展と課題を明らかにし、そこに生じうる倫理的法的社会的問題を把握し、学際的に理論的および実際的側面に配慮しつつ、新しい社会規範としての生命倫理のあり方と体系を総合的に検討して、生命倫理基本法の枠組みを提言した。具体的には、生命倫理基本法の必要性と基本的考え方、生命倫理一般原則群、分野別規範群、倫理審査体制、国や社会の取り組みを提示した。それらの内容は国際基準及びアジア的価値観とのすり合わせも行った。