著者
森山 徹 Toru Moriyama
出版者
基督教研究会
雑誌
基督教研究 = Kirisutokyo Kenkyu (Studies in Christianity) (ISSN:03873080)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.75-94, 2009-12-03

「アウシュヴィッツ以後」、ユダヤ教とキリスト教の関係を考えた神学者や研究者たちは、キリスト論とキリスト教的反ユダヤ主義の共犯関係を批判してきた。しかし、これらの批判は、キリスト教的反ユダヤ主義の根源的な克服を要求するあまり、しばしばキリスト論までも毀損してきた。本稿の目的は、モルトマンのキリスト論とキリスト教的反ユダヤ主義の関係を明らかにすることにある。モルトマンは、イスラエルの歴史に基づくメシア理解と、十字架につけられたイエスの理解から、「途上のキリスト論」を主張する。このキリスト論によって、彼は、キリスト教的反ユダヤ主義を相対化するだけでなく、キリスト論をも保持することを可能にした。アウシュヴィッツとキリスト教の関係を問題にしている神学者ロイ・エッカートは、モルトマンのキリスト論を「先延ばしされた勝利主義」として批判した。しかし、モルトマンは、途上のキリスト論が、キリスト教的反ユダヤ主義と勝利主義を克服し、キリスト論を保持するのだと主張した。