- 著者
-
津田 悦子
Tsuda Etsuko
ツダ エツコ
- 出版者
- 大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
- 雑誌
- 大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
- 巻号頁・発行日
- no.5, pp.29-44, 2000-03
西洋の近代的子ども観の基本枠組みを明るみに出したアリエス著『〈子供〉の誕生』の「子ども」はいかなる年齢集団を対象としているのか。これについてのこれまでの見解は一致せず矛盾の様相さえ見せている。「子ども」年齢の追究は、発達段階理論の発展に伴って未成年者全体と単純に想定するだけでは不都合な場合もあり、今後その必要性は増していくように思われる。そこで、アリエス論における「子ども」年齢を探る手段として、「新生児期」という最初で最短の時期を取り上げ、「新生児」への言及を拾い出し、考察を加えながらその位置づけを模索する。その一連の作業から見出されたのは、「子ども期」の歴史が「新生児」に関わる事象とそうでない事象に二分されていることであった。つまり、近代以前の「子ども」が軽率に扱われた証拠となる事象は「新生児期」と関わりを持ち、反対に、近代以降の「子ども」の記述内容においてはなぜか人生初期の「子ども」への焦点がぼやけるのである。一括りにして述べられる「子ども観」の中で、最も「大人」にとって異質な「子ども」である「新生児」は、過去の親子関係の劣悪さを強調する役割を担わされたのだろうか。これから必要とされる「子ども観」にとって、重要な基礎となる歴史把握に疑問を提起する。