著者
辻 圭秋 ツジ ヨシアキ Tsuji Yoshiaki
出版者
同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
雑誌
一神教世界 = The world of monotheistic religions (ISSN:21850380)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.37-50, 2015-03-31

イエメン・ユダヤ詩の特徴は多岐にわたるが、その中でも特に興味深いものに、アラビア語で「ジャワーブJawāb」、ヘブライ語で「シール・マアネー Shir Ma'ane」と呼ばれる作詩技法がある。ジャワーブには二類型あり、アラブ詩学の用語でいう「ムアーラダMuʿāraḍa」、及び「ズィヤーダZiyāda」という二つの技法を含む概念である。前者は、先行する特定の詩と同じ韻律・押韻・主題・特徴的な単語でもって作詩したものであり、元の詩を知る者には瞬時にどの詩を元に作られたのか判別できる。後者は、先行する詩を基に作詩するのは同様であるが、その先行する詩に手を加えることなく、その上に作詞者による新しい詩句を付け加え、全く新しい詩を作り出す技法である。このジャワーブ、なかんずくズィヤーダはイエメン詩に集中的に観察されるが、従来研究者の注意をあまり引いてこなかった。本論文では形式からみたその技法の分類を示し、またその形式によってもたらされる特徴を示す。Being influenced by Jewish academic centers such as Jerusalem, Babylonia and so on, Yemenite Jewry have long created their own poems. During the Spanish Golden Age, they passionately embraced the new style of Hebrew poems, and then, from the 17th century on, they succeeded in creating their own style, thanks to adopting the poetic technique of their Muslim neighbors. One of the unique features in the field of poetics that is loved by the Jews of Yemen, is undoubtedly the genre called in Arabic "Jawāb," which literally means "a Response (to a former poem)." Although this phenomenon has been known among researchers, there has still been no comprehensive study on this theme. In this introductory paper I suggest that, first of all, Jawāb poems can be divided into two categories, Muʿāraḍa and Ziyāda. Then I present the idea that Muʿāraḍa can be further sub-divided into two and Ziyāda into three categories, suggesting their uniqueness in terms of changing their original context.
著者
辻 圭秋 ツジ ヨシアキ Tsuji Yoshiaki
出版者
同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
雑誌
一神教世界 (ISSN:21850380)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.15-26, 2010-02-28

本論文は、「イスラーイーリーヤート」という概念に対する理解を、(1)現代イスラーム世界のウラマー、(2)I.Goldziher、(3)S.D.Goitein、の三者から探り、Goiteinのイスラーイーリーヤート理解が前二者とは大きく異なることを明らかにする。(1)現代イスラーム世界のウラマーによるイスラーイーリーヤート理解は、「ユダヤ教・キリスト教的な信頼できない言説の総体」であり、実際にユダヤ教に由来するかどうかは問わない。(2)Goldziherも、個々の言説のユダヤ教的来歴を問題として俎上に載せることはあっても、大部分はウラマーの規定に従っている。他方、(3)Goiteinはイスラーイーリーヤートを、「ユダヤ教に由来する言説」と理解する。Goiteinによるイスラーイーリーヤート研究の方法論は、ユダヤ学における教父研究に近いものであり、一神教研究のみならず、イスラーム・ユダヤ教交渉史を考える上で極めて有益な知見をもたらすものであることを明らかにする。