著者
上谷 直克 Uetani Naokatsu
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.2-34, 2012-12

本稿の目的は,1980年代から2000年代の前半にラテンアメリカ地域で多数生じた「大統領への挑戦/失墜」に関するさまざまな議論を,数理モデルによって架橋し,この政治現象の因果ロジックを解明することである。そしてこの作業を経て得られた5つのポイントに注目しつつ,近年のエクアドルで生じた3つの挑戦/失墜事例(1997,2000,2005年)により,モデルの含意を検証した。結果,挑戦から失墜,とくにその収束のありかた(解任か追放か)に大きな影響をもつのが,抗議運動の「強さ」や志向性の如何によって変動する議会枢要プレイヤーの期待利得であることが確認された。すなわち,大統領-議会関係だけでもなく,また,抗議運動や個々の社会運動組織だけでもなく,やはり両者の相互作用を過程追跡しない限り,大統領への挑戦/失墜の「分析」は不十分なものとなるのである。